右手にはセトナちゃん。 左手には風花ちゃん。 抱きついているのは樹里。 はてさて、これは一体どういう状況でしょうか。 結婚狂詩曲 宇宙に浮かぶジェネシスα。 その一室のソファーを陣取って、は雑誌を読んでいた。 宇宙に上がる前に友達に渡された雑誌で、最新のファッションに化粧やネイルアートの紹介、結婚や恋愛に関する特集や読者の声・・・などが掲載された今時の女の子向けの雑誌だ。 「、それちょっと見せて」 言われれは、素直に雑誌を樹里に渡す。 樹里はそれに興味があるらしく、楽しそうに読んでいる。 その姿を見て、やっぱりああいう雑誌を読むのは樹里とかだよねー、とは考えていた。 貸してくれた友人には申し訳ないが、の興味をそそるような記事は、掲載されていないのだ。服装はともかく、始終スッピンで過ごすは、化粧の仕方や化粧品の種類に興味がない。 と、いうか、そこまで気が廻らない。 ただ、雑誌を見ていて思うのは、恋愛や結婚に関するネタが多いこと。 世の中の女性は恋愛が好きなのだろうか――私には遠い世界の話なんだろうねぇ・・・どこまでもマイペースで、他人事なだった。 そんな風にボケッとしていると、セトナがに声をかけた。 「様、どうぞ」 ティーカップが載ったお盆を手にしたセトナが笑顔を浮かべてたっていた。 「ありがとう、セトナちゃん」 そこでは、我に帰ったらしく、礼を言ってセトナからティーカップを受け取った。 一口飲めば、その芳醇な風味が広がる。 「うん、美味しいよ、セトナちゃん」 言うと、セトナは嬉しそうに笑った。 「ありがとうございます」 笑顔のセトナを見て、は心に秘めていた言葉を口に出した。 「セトナちゃんみたいな可愛い子が妹だったら良かったなーって、心底思うよ」 その言葉を聞いたセトナは、一瞬、キョトンとしたが、直ぐにに問いかけた。 「本当ですか?」 「本当だよ」 「私も様のような方がお姉さまだったら嬉しいです」 「嬉しい事云ってくれるね」 云いながら、はセトナの頭を撫でる。そうすると、セトナはちょっと恥ずかしそうにはにかむのだ。 (本当に可愛いな〜) のんきにはそんな事を考えていた。 には5歳離れた弟が一人いる。 甘えん坊で、お姉ちゃん大好き――所謂『シスコン』と呼ばれるタイプの弟だ。 自分にくっついてくる弟は可愛い。 だが、は実は妹が欲しかった。 一緒に買い物をしたり、料理をしたり――そんな風に一緒に過ごせる妹が欲しかったのだ。 そんな風に考えていると、セトナが何か思いついたかのように、手を叩いた。 「それでしたらいい方法がありますわ」 「何?」 「様がアグニスと結婚すればいいんですわ」 その瞬間。 ブフッッ!!! 飲み物を噴出す音やむせる音が周囲から盛大に聞こえてきた。 「・・・何故?」 そんな音をバックミュージックに、は顔をしかめつつセトナに問いかける。 「様がアグニスと結婚すれば、私は様の妹になります。だから、様がアグニスと結婚すればいいんですv」 ニコニコと笑顔でセトナが言う。 「・・・」 何か、微妙に間違ってないか? 突っ込みたいところはあるが、とりあえずその突っ込みをは飲み込み、深呼吸をしてセトナを見る。 「あのね、セトナちゃん」 「はい?」 「結婚は、お互いの意思の合意で行うものなんだよ。アグニスの気持ちも考えないで軽々しく『結婚』なんて言っちゃ駄目だよ」 わかった? が言うと、そうですか、とセトナが言う。納得したのだろうか?そんな風に思っただが。 「アグニスは様が嫌いですか?」 不意にセトナはアグニスの方を向いて言った。 「え・・・」 コレに驚いたのは、アグニスだ。 いきなり実姉にそんな事を言われれば、驚くのも無理はない。 「嫌いですか?」 「え、あ・・・き、嫌い・・・じゃない・・・」 ボソボソとアグニスが言う。 アグニスはに好意をもっている。だが、アグニスの性格との天然記念物級の鈍さからか、なかなかその思いを伝えられずにいるのだ。 「アグニスの意思も確認しましたから、大丈夫ですわ」 セトナはの右手を取って云った。 流石のでも、この返答には困る――ちょっと、強引過ぎないかな?そう思い、その意思を伝えようとした。 「あのね、セトナちゃん・・・!?」 だが、グイッと左手を引っ張られた。 「――風花ちゃん?どうしたの?」 見れば、怒ったような表情の風花がいた。彼女は、今までとセトナの会話に口を出さずに、その動向を見守っていたのだ。 「嫌いじゃないって事は、好きでもないって事でしょ?の事、ちゃんと好きだって言ってくる人じゃないと、結婚したって幸せになれないわ」 「んー・・・」 風花の言い分にも、筋は通っている。 アグニスは自分の事を『嫌いじゃない』といった。けれど、彼の言い方は『好きでもない』ともとれる。 「イライジャ!」 「な、何だよ?」 アグニスと同じように突然話をふられ、イライジャは驚きながらも、風花を見た。 「イライジャは、カズキの事、好きでしょ?」 その言葉を云われた途端、イライジャは顔を真っ赤にした。 「え、あ・・・!?」 「イライジャ!」 男らしく云いなさい、といわんばかりに、風花はどもる彼を叱咤する。 「す、・・・好き・・・だ・・・」 最後の方は、蚊の鳴くようなか細い声だった。けれど、その言葉は、しっかりと彼女の耳に届いていた。 「はイライジャの事、どう思う?」 「え?」 突然話をふられて、は戸惑った――イライジャの事、どう思う?――どういう意味で聞いているのだろうか? しばし考え込み、は答えた。 「努力家で、良いヤツだと思うよ」 それはの本心だった。 容姿ばかりで技術が追いついていないイライジャは、いつも努力している。その姿を、は知っているのだ。 「ホント?」 「ホントだよ」 確認するような風花に苦笑しつつも、はありのままの言葉で言った。 「それじゃあ、。サーペントテールに来て」 「はい?」 えー、ちょっと待って、これ、どういう展開なの? 「何で?」 「だって、イライジャはの事好きだって云ってるし、マーシャンの人より付き合いが長いし、がイライジャと一緒になってサーペントテールに着てくれたら、お母さんもリードも劾も喜ぶよ」 「まー、確かに付き合いは長いけど・・・」 ロウより短いと思うけどな(基準点はそこ) そう思っても、風花とセトナがを挟んで睨み合っており、口に出せる状態じゃないため、は心の中で呟くだけにした。 「ちょっと待って!」 そんな三人の間に入った――の後ろから抱きついたのは、それまで雑誌を読んでいた樹里だった。樹里も風花と同様に、事の動向を見守っていたのだ。 「付き合いが長いって云ったら、ジャンク屋での付き合いが一番長いのは、リーアムよ」 ジャンク屋っていうか、一番付き合いが長いのは、ロウなんだけど・・・(やっぱり基準点はそこ)。 「は今までジャンク屋としてやってきて、これからもジャンク屋としてやっていくんでしょ?」 「まあ、今のところはね」 「だったら、無理にサーペントテールにならないで、リーアムと一緒になればいいのよ」 はジャンク屋の仕事を手伝い始めた時から、一生ジャンク屋としてやっていくのだと思っていた。 それは、今も変わらない。 その気持ちを汲んでくれた樹里はありがたいが、彼女の発言は、微妙に爆弾発言だ。 「えーっとね・・・」 どういう風に答えれば良いだろう? 困ってしまったカズキは、助けを求めるかのように周囲を見回す。すると、目が合ったリーアムが、カズキに微笑みかけた。 「安心してください、カズキ。私はカズキの事が好きですから」 「ちょ・・・!?」 そういう意味じゃないんだけど・・・!! リーアムの発言に、カズキは心の中で突っ込みを入れた。 「あら、決定ね」 「でも、カズキ本人の意思を確認しないと」 「プロフェッサー!?ロレッタさん!?」 二人して、何と云う発言をするんですか!?てか、止めてくださいよ!! プロフェッサーとロレッタの大人の女性陣は、全くとめる気はなかった。 それどころか、『ジャンク屋に残るか、サーペントテールになるか、どちらかを選択してv』というような、無言の圧力を感じる。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 また、話を触れた男性陣と、カズキに好意を持っているが口を挟めなかった男性陣、風花・セトナ・樹里の女の子三人の睨み合いが続く。 その沈黙を破ったのは 「お主ら、いい加減にせぬか。が困っているであろう」 ロンド・ミナ・サハクだった。 「ロンド様?」 まさか、彼女が争いに口を出してくるとは思わなかった。は不思議そうにミナを見る。 「に結婚の意志がないのは明白。それを無理強いするのは、失礼極まりない事だ」 ミナのいう事は尤もだ。 現段階で、に結婚の意志はない。 と、いうか、は恋愛に関してかなり淡白で、興味をほとんど抱いていないのだ。いいな、と思っても、それ以上の感情にはならないのである。 恋愛感情に希薄なに、結婚だの恋愛だのを強制するのは、間違っているというのが、ミナの言い分である。 「だが、がアメノミハシラに来るのであれば、歓迎するぞ」 そっちですか!? ミナの発言に、その場にいた一部を除いた面子が突っ込みを入れた。 「えーっと・・・」 「遠慮する事は無いぞ、」 「いや、遠慮してませんが・・・」 「駄目、絶対に駄目!」 「そうですわ!様は渡しませんわ!」 「は、アタシ達一緒にいるの!」 それまで黙っていた三人が口を挟んできた。気がつけば、三人は協力する形で、をアメノミハシラ――ミナに渡さないよう必死になっていた。 三人の心は一つ――カズキ(様)をアメノミハシラに渡さない! だが、そんな事など知らない当の本人は、一体彼女らは何を言っているのだろか。と、いうか、これは一種の嫌がらせか? そう思えてくるあたり、もう末期かもしれない。 ・・・当分結婚とか恋愛しなくてもいいかな・・・。 半ば他人事のように、は思った。 そう思っていることを、彼女たちは、知らない。 知る由もなかった。 END |
後書き
結婚シリーズ第一弾!(勝手にシリーズ)
さんの基準点は、とりあえず、ロウ。ロウとさんはジャンク屋組合公認の相棒。二人の間には、誰も入っていけません
なお、今回話に登場しなかった、ジェス・マディガン・カナード・ナーエ・ディアゴといった男性キャラもさんに好意を持っています。書ききれなかった自分の技量の無さをつうかんしましたね。
一度、さん女性キャラを中心とした逆ハーレムチックなネタをやりたかったので、このネタがかけて満足です。