発展途上の関係 オレの名は、ジェス・リブル。 フリーのフォト・ジャーナリストだ。 MSに乗って戦場を駆け回り、真実だけを追い続けている。 おかげで、オレは『野次馬のジェス』とか呼ばれるようになった。 そんな事ばかりしているオレだが、好きな子が出来た。 彼女の名は、・。ジャンク屋組合の技術者だ。 女性にしては高めの身長に、少々きつめだがまっすぐな瞳、何より、その笑顔に惹かれた。 との最初の出会いは、ザフトの巨大兵器であるジェネシスαの中だった。 マティアスから貰った情報を頼りにやってきたわけだが、 そこにいたのは、ザフトとは何も関係の無いジャンク屋だった。 間抜けな話だが、マティアスから借りたレイスタをサーペントテールに破壊された上に、彼らに捕まったのだ。 其処で出逢ったのが、アウトフレームを譲ってくれたロウ・ギュールとだった。 彼女の笑顔を見たオレは、彼女に惚れて、アウトフレームの整備の技術者として同行を頼んだ。 ジャーナリストの仕事もジャンク屋の仕事も、かなり不規則(?)でこの機会を逃したら、 に二度と会えなくなる、と思ったからだ。 幸いな事に、は技術者としての同行を快く引き受けてくれて、 今に至るわけだが・・・悲しいことに、との進展がまったく無い。 と仲の良いロウに聞いてみたが、 「は恋愛沙汰にかなり疎いからな・・・まあ、気長にやりな」 という、アドバイスにもならないアドバイスを貰った。 実際、は自分の容姿と恋愛沙汰に興味が無いらしく、街を歩いていてナンパされても、軽くスルーしている。 さっぱりしていて裏表の無い性格だから付き合いやすいが、オレとの関係は単なる『友人』止まりだ。 オレは、『友人』より先の、もっと親しい関係になりたいと思っているが、なかなか進展の機会がない。 カメラの手入れをしつつ、そんな事を考えていると、が声をかけてきた。 「ジャス、今日の夕食は何が食べたい?」 「が作るものなら、何でも良いぜ」 「分かった」 普段、オレ達の食事は押しかけアシスタントであるセトナが作ってくれる。 しかし、セトナは姿を消してしまう事があり、そういう時はが作ってくれる。 の料理もセトナに負けないくらい美味いと思う。 「、それは何だ?」 ふと、の頭に普段つけていない白い花がついているのが目に付いた。 「セトナちゃんが付けてくれたんだよ」 「セトナが?」 「ああ。『似合いますよ』とか言ってな」 の口ぶりからして、自分にその花は似合わないと思っているのだろう。 俺から見れば、その花は、の髪の色や髪形にとてもよく似合っていると感じる。 ・・・結婚式には、あの花が必要だよな。にはシンプルなドレスが似合いそうだ・・・。 ・・・って、オレは何を考えているんだ!! 「ジェス?具合でも悪いの?」 「え、いや、別に・・・」 「それなら良かった」 が笑った。 うわ、その笑顔反則・・・。 普段はあまり笑わないくせに、こういう時だけ笑うからな・・・。 「じゃあ、夕食期待していてくれ」 「分かった」 会話が終了すると、はアウトフレームのバック・ホームから降りて、森へ行ってしまった。 きっと、果物や魚を採ったり、野ウサギとかを捕まえるんだろうな。 食料が無い時、の狩りの能力はかなり頼りになる。ジャンク屋なのに、どうやってそういう技術を覚えたのか疑問だが。 「考えていても仕方がないな」 オレは考えるのをやめて、カメラの手入れに戻った。 * * * 「よし」 カメラの手入れを終えたオレは、カメラを持って外に出た。 俺達がいる場所は、戦火の落ちていない穏やかな丘で、淡い色の花が所狭しと咲いている。 ふと、目をやると、かごを持ったが歩いているのが見えた。 未だ頭に飾られている花に誘われたのか、蝶がヒラヒラとの周囲を飛んでいる。 は嫌がっていないらしく、笑顔で歩いている。 ―――それは、俺がはじめてジェネシスαでを見た時の笑顔だった。 呆気にとられた俺は急いでカメラを構える。 カシャッ 「ジェス、何撮ったの!?」 流石にシャッター音に気づいたらしく、籠をその場において、が走ってくる。 「フィルムよこして!」 「ばか、やめろ!」 「だったら、今すぐフィルム捨てなさい!」 「嫌だ!」 折角の笑顔を取ったのに、簡単にとられてたまるか! オレとは攻防戦を繰り広げた。 「うわっ!」 「きゃっ!?」 ドターンッ 「いってー・・・」 「あたた・・・」 勢いあまって転んだようだ。 目を開けると、の顔が正面にあり、花も一緒にあった・・・。 俺はの両手首を掴んでいて、が逃げ出さないようにしている・・・。 えーと・・・これはつまり・・・。 「・・・?」 オレがを押し倒しているという事か? も驚いているらしく、瞬きをしているだけで、何のリアクションも起こさない。 「、平気か・・・?」 そのままの体勢で問いかけてみるが、返事が無い。 ・・・これは、チャンスか? きっとそうだ。 これは、一生に一度あるかないかのチャンスだ。 このチャンスを生かさなきゃ、男がすたる。 男は度胸だ、ジェス・リブル! 「オレ、のことが、好きなんだ」 は瞬きもしないで俺を見ている。 「一目惚れして、アウトフレームの整備士としてきてもらったけど、そんなのは単なる口実で・・・ 本当は・・・もっとの事が知りたくて、来てもらったんだ」 「え・・・?えーっと・・・」 あ、、困ってる。 顔を真っ赤にして・・・普段とギャップがあって、可愛いな・・・。 「オレは真剣だぜ。本当に、の事が好きなんだ」 「ジェス・・・」 は泣きそうな顔をして、俺を見ている・・・そんな顔させたいわけじゃないのに。 答えてくれよ、・・・。 「私は・・・」 ようやく、振り絞るように、は声を出してくれた。 「私は・・・その、好きとか、嫌いとか、良く分かんなくて・・・」 「・・・」 「・・・そういう台詞、はじめて男の人に・・・云われたから・・・」 「そっか・・・」 はじめて、か・・・。 「女の子からよく言われてたけど」 「・・・は?」 「よくジャンク屋組合や知り合った傭兵や軍人の女の子達に云われてたから」 「・・・」 ・・・って、同性にもてるんだな。 仕事で知り合ったジャンク屋組合の人間にの事を聞くと、毎回決まって帰ってくる言葉がある。 『下手な男より漢らしくて頼りになる姉御』 実際、は知識が豊富で、オレよりも頼りになる。 だからか? だからは、同性にもてるのか? 「あのね、ジェス」 「あ、何だ?」 「私、ジェスの事、嫌いじゃないよ。嫌いだったら、一緒に行動しないし・・・」 まあ、そうだよな。 「じゃあ、オレの事、好きか?」 「・・・ごめん、よく、分かんない・・・」 「そっか・・・」 「だからさ・・・」 「ん?」 「もう少し・・・時間をくれないかな?そうすれば、答えが出ると思うんだ・・・」 「分かった」 無理強いするのは良くないし、はオレの事が嫌いじゃない事が分かっただけ収穫があったって事だ。 「、俺、待ってるからな」 「・・・ごめん・・・なるべく早く答えを出すから」 「そうしてくれと助かるよ」 オレとの関係は、まだまだ発展途上中という事だ。 END |
後書き
珍しく、シリアスで弱気なヒロインでした。
本当のさんは、もっと凛々しくて漢前で、同性とヘタレな男にやたらと人気があります。
もっとジェスをヘタレにする予定でしたが、そうすると、イライジャと被りすぎるので、ここまでにしておきました。
でも、このヒロインを書くのはとても楽しかったです。