愛すべき人へ



2月14日は女性が男性にチョコレートともに愛の告白をする日、バレンタインデーだ。
しかし、ユニウスセブンが落下して大勢の犠牲者を出した日――バレンタインにちなんで『血のバレンタイン』と呼ばれるようになった。
この日、肉親を亡くした人間にとっては忌むべき日なのだが、傭兵部隊サーペントテールの整備士(技術者)であるからすれば、たんに『お菓子をもらえる日』である。



「義理じゃなくて本命が欲しいって、そう思わね?」
宇宙に浮かぶ、ジャンク屋組合の本部扱いされているジェネシスαにやってきたは、同じサーペントテールのパイロットであるイライジャ・キールに愚痴をこぼしていた。
は本命が欲しいのか?」
「当たり前じゃん。義理はその他大勢って感じだけど、本命は自分だけって感じてするし・・・イライジャだって、あの子から貰いたいんだろ?」
どうよ?悪魔のような笑みを浮かべたは、ひじでイライジャの身体をつつく。
「そ、そりゃぁ、もらいたいけど・・・」
イライジャは真っ赤になりながら俯いてしまった。
そんなイライジャを見て

(相変わらず情けねぇヤツだな)

は思ってしまった。
彼が想いを寄せるのは、(サーペントテール)とも面識があり、『雄々しい』とか『凛々しい』とか言う表現が似合うジャンク屋組合に所属する女性だ。彼女の想いを寄せる男は割りと多く、イライジャもその一人である。
は彼女を付き合いやすい友人と認識しているし、叢雲劾とはビジネス仲間、リード・ウェラーは娘のように可愛がっているため、イライジャ以外のサーペントテールの男は彼女に恋愛感情を抱いていない。逆に、イライジャと彼女の恋愛を応援しているのだ。
は好きな子がいるのか?」
「いんや、いねえよ。オレみたいなのを好きになってくれる子なんて、早々いないと思うしな」
悲しいよ〜。とは泣き真似をする。
(そんな事は無いと思うけどな)
そんなを見て、イライジャは心の中で呟いた。




、イライジャ」

背後から声をかけられ二人が振り向くと、そこには風花・アジャーがいた。
「どうしたよ、風花」
身長差があるため、は少々屈んで風花と視線を合わせる。
「あのね、今日バレンタインだから、あげる!」
恥ずかしいのか、風花は後ろに隠していたものを俯いたまま差し出した。
受け取った二人はそれぞれ顔を見合わせる。
そして、
「ありがとう、風花」
にっこり、とは(極上の)微笑で礼を言った。
途端、風花の顔が真っ赤になった。
「お・・・お世話になってるから・・・!」
彼女はそれだけ言うと、二人の前から走り去ってしまった。
イライジャはの後、礼を言おうと思ったのだが、走っていってしまったため、言えなかった。

「・・・オレ、何かしたか?」

「いや・・・」

風花の行動を全く理解できないのか、は首を傾げてうんうん唸っている。
イライジャは自分との貰ったもの――綺麗にラッピングされたバレンタインのお菓子を見比べた。自分の貰ったものは水色のリボンで、のものはピンクのリボン。加えて、の方が大きい。

(の方が本命だよな)

あからさま過ぎるのだが、は気づいていないようだ。
「オレ、ちょっと行くところがあるから」
イライジャがに声をかけると、
「おう」
と返事をされた。はまだ悩んでいるようだ。




イライジャがいなくなり、数分後。
「ま、悩んでてもしかなねぇか」
は開き直っていた。
風花から貰ったものを上着のポケットに押し込んでみるが、大きいため、なかなか入らない。
「っ・・・やば、このままじゃ潰れるな・・・」
折角貰ったものをつぶすのは忍びないと思い、はこの行動を直ぐに止め、手に持ち直した。
すると。
様〜」
のんびりとした声が聞こえてくると同時に、ピンク色の髪の持ち主であるセトナ・ウィンターズがやってきた。
「セトナがここにいるなんて、珍しいな」
「はい。様に会いたくてやってきました」
「嬉しい事云ってくれるな、セトナ」
あはは〜、と笑うを見て、セトナもニコニコと微笑んでいる。
「忘れてました、様、これをどうぞ」
セトナは可愛らしくラッピング袋をに差し出した。
「いいのか?」
「はい。私はそのために着たんですから」
「ありがとう、セトナ」
は風花のときと同じように、にっこりと微笑んだ。釣られてセトナも微笑んだが、彼の手に有るものを見て、不思議な表情になった。
様、それ、どうしたんですか?」
「これか?風花から貰ったんだよ」
「貰ったんですか?」
「そ」
ま、仲間だからね〜。のんきに云うの胸元を、セトナがガシッと掴んだ。
「セトナ?」
様」
「うん?」


「私、様の事大好きですから」


他の誰よりも。

そして、の頬に口付けると、にっこりと微笑み去って言った。


「・・・女の子ってパワフルだねぇ」


相変わらずのんきな事いうだった。



風花もセトナもに上げたものは、他の男性陣よりも気合の入ったラッピングをしてあるものだった。


彼が二人のキモチを知り、その答えを出すのは、まだ先の未来。


  END