4.背伸び

ロウ・ギュールは珍しく図書館に来ていた。
学部全体の選択科目であるシステム基礎理論の課題のレポートをこなすためで、課題のレポートの資料となる本が、この図書館にしかないからだ。
否、課題の資料となりうる本なら、大学の図書室にもある。しかし、大学の図書室にある本は、当たり前だが専門的な本ばかりで、初心者向きの本は無い。
先輩であるカズキ・ユーティリティから、「大学にある本よりも市営図書館の方が分かりやすい本がある」、というアドバイスを貰ったからだ。
云われてみればそうだ。
大学の図書室は一般開放されているといっても、利用するのは在学生かOBくらいで、専門知識のない一般人は、わかりやすい本が置いてある図書館に行くだろう。
いくら勉強したといっても、ロウはまだ1年生で、そんなに知識があるわけではなく、大学の専門書籍よりも一般(初心者)向書籍のほうが分かりやすいだろう。


『情報・工学』の棚にやってきたロウは、カズキから渡されたメモを頼りに、参考書を探していた。
パソコンなどに関する本は年々新しくなるため、最新版を探すのは難しい。だが、去年〜一昨年の本は借りる人間が少ないため、探しやすいという。ついでに、専門書籍の置いてある棚を利用する人間は少なく、人気が無い。
そして、探している本である『パソコンシステムの基礎知識』を見つけ、ロウはそれに手を伸ばした、が。

「・・・」

届かない。
背伸びをしても、届かない。
専門書籍は年々新しいのが出るため、古く人が借りない本は上か下の棚にあることが多く、ロウが探している本は、上の棚にあるようだ。
ロウはじっと本をにらみつけた。
この場合、台や脚立を持ってくればいいのだが・・・それをやるのは嫌なようだ。
「っ・・・!!」
意地でも自分で本をとろうと躍起になっているロウの背後――横から、すっと腕が伸びて、簡単に本を取った。
「これか?」
横を見ると、自分の恋人であり保護者である叢雲劾がそこにいた。その手には、ロウが探していた―――とろうとしていた本がある。
「ありがと」
礼を言ったものの、ロウは内心不満だらけだった。
こういう時、嫌でも自分と劾の身長差を嫌でも感じてしまう。
ロウの身長は172cm。それに対して、劾の身長は181cm。その差は9cmだ。

たかが9cm。

されど9cm。

9cmの身長差を、ロウはとても大きく感じていた。
それだけではない。
ロウより年上の劾は、ロウから見れば何事も余裕を持って行っているように思える。特に身体を重ねる時など、ロウは必死なのに対し、劾は余裕で攻めている・・・ようだ。
普段は意識しないようにしているのだが、意識してしまうとずっとそれを引きずってしまう。
そうしてしまうのは、自分が子どもだからか。
気がつくと、ロウは劾の服の襟を握り締めていた。

「ロウ?」
劾の表情は変わらない。

何となく・・・むかつく。

むかついたロウは、背伸びをして、劾に口付けた。触れるだけの僅かなキスだ。
キスが終わると、直ぐに握り締めていた襟を放した。その顔は恥ずかしいのか、熟れたリンゴのように真っ赤になっている。
「べ、別に深い意味なんかないからな・・・!!」
ロウはそっぽを向いたが、その手はしっかりと劾の手を握り締めている。
「届かない所、劾がとってくれよな」
素直じゃないロウの台詞に劾は苦笑するも、それに了承するかのように、ロウを引き寄せてうなじの辺りにそっと口付けた。
「早くレポートを終わらせないとな」
「おう」

 END



後書き
 9センチの身長差って微妙・・・。ついでに、あんまりお題に沿ってない気がします。
 ウチの劾は余裕のある大人。なので、Hの時も余裕を持ってロウを攻めています。よほどの事が無い限り、ロウに無理はさせなさそう。
 逆にロウはHの時いっぱいいっぱいだけど、劾の攻める場所が正確なもんだから、感じすぎちゃってヤバイというか何と言うか・・・。
 こんな二人でも好きなんですけどね。