11.煙草



大学から帰り、ある程度食事の支度を終えたロウは、暇をもてあましていた。
同居人であり恋人である劾の帰宅まで時間がある。普段なら、講義で出された課題やセミナーで出されている課題について調べているところだ。
しかし、今日は珍しくそういった課題が無い。テレビでも見ようかと思ったが、夕食時にやっている番組など高が知れているし、友人や先輩から借りたDVDも見る気になれない。
そんな時、ふと、目に付いたのが、テレビの上に乗っている煙草と灰皿とライターだった。
煙草―――GINN(ジン)と陶器製灰皿とライターは、劾が愛用しているものだ。


大学の施設は禁煙となっており、喫煙者からすれば苦痛以外の何者でもない。その為、大学の本館と講義塔を結ぶ渡り廊下の1階部分に喫煙所があり、休み時間などは学生や教授などが煙草をすっている。
先輩であるカズキ本人は煙草を吸わないが、友人の付き合いで喫煙所に行く事があり、僅かではあるが、煙草の臭いがまとわりついている事が多い。
あんなものの何処が美味いのか。
ロウはあまり煙草が好きではない。
喫煙者を見るたびにそう思っているロウだが、劾に染み付いている煙草の香りは嫌いではない。
むしろ、安心するのだ。

だからなのだろうか。

ロウは自然と煙草を手に取った。
カサカサと音を立てて箱から1本取り出し、指に挟んだまま、ライターで火をつける。煙草の先は赤くなっただけで、煙は昇らない。
劾が煙草を吸う真似をして吸ってみた。
途端、ゴホゴホ・・・と激しく咳き込んでしまった。

「な・・・んだ・・・」

どうやら、思い切り煙を吸ってしまい、むせてしまったようだ。
煙草はo単位で表示されている。1mmは空気に近く、それより高くなればなるほどキツくなる。いくつか銘柄があるが、GINNは12oというキツイ煙草なのだ。
ロウは持っていた煙草を灰皿に置き、慌てて水を飲んだ。
「・・・煙草って、あんなにキツイもんなんだなー・・・」
リビングテーブルの上に置かれた灰皿からは、消していなかった煙草から煙が出ており、ロウの心酷くかき乱した。
どんなに紫煙をくゆらせても、普段それをくゆらせている人物は傍にいないのだ。

―――劾、まだ帰ってこないのかな?

ソファーに座ったロウは、そのまま、ゆっくりと眠りに付いた。





それからしばらくして、劾が帰宅した。明かりはついているが、やけに静かだ。
「ロウ、いないのか?」
リビングダイニングに入ると、ソファーに持たれかかって寝ているロウを発見した。
「まったく・・・こういうところは子どもだな」
普段、自分との年齢差にコンプレックスがあるのか、子ども扱いされる事を嫌っているロウだが、眠っているときは子どものように感じられる。
ふと、リビングテーブルに灰皿が置いてあった。半分ほど灰になりかけた煙草がある。
劾は無言で煙草の火を消して、ロウを軽く揺さぶった。
「ロウ、起きろ」
「・・・ん・・・がい・・・?」
眠りが浅かったらしく、ロウは直ぐに目を覚ました。
それでも、眠いらしく、何度も目を擦っている。劾はその仕草に愛らしさを感じた。
「ただいま」
劾は、苦笑しながらロウの頭を撫でた。
普段はこの行動を嫌っているが、この時ばかりは嬉しそうに笑い、劾を確認するかのように、ぎゅっと抱きついた。
「おかえり、劾」

END
 



後書き
 劾ロウで一度やりたかった煙草ネタでした。
 漫画や小説で煙草を吸う描写をほとんど見かけない劾だけど、公式のイラストでは煙草を持っているから、喫煙者だって勝手に解釈しました。
 私は禁煙者なので、喫煙者の友達にタバコについて聞きましたw
 作中で出ている銘柄の『GINN(ジン)』は、マルボロみたくポピュラーな銘柄です。
 ASTRAYに関連する言葉を使いたかったので、MSより借りました。