劾(17歳/学生)×ロウ(23歳/教師)のパラレルです。 私的には珍しい年下攻め。 秘密の恋 叢雲劾は、技術室に向かっていた。その手には、分厚い紙の束が有り、彼は宿題であるレポートを提出しに行くのだ。自分の分だけではなく、週番である劾はクラス全員のレポートを集めて提出しなければならない。 放課後、帰宅部である劾はコレといった予定はないのだが、もう一人の週番が、他校の彼女とデートだ、とか言って、日誌の記入を終えて直ぐに帰ってしまったのが気に食わない。 (まあ、相手がロウ先生だから、構わないんだけどな・・・) それでも、これから宿題を提出しに行く相手のことを考えると、わりと気が楽になる。 専門的な知識を学ぶ専門高校と違い、普通科は必須科目以外に選択科目が存在する。 そんな中で、一際人気があるのが、技術――正式名称は技術家庭。通称、技家。はんだごてや簡易ロボット製作などをおこうなう技術に、料理や栄養を幅広く教えてくれる家庭科は、毎年定員をはるかに超えて、授業数を変更しなければならないのだが、学生である劾は知る良しもない。 それはともかく。 劾が技術の授業を楽しみにしているのは、授業内容もあるが、一番は教えてくれる教師にあった。 彼は座学で生徒を縛り付けたりする事はほとんどなく、作成キットを使った実習授業を行う。大学を卒業したばかりで、男子生徒からみれば、気さくで頼れる兄のような教師、ロウ・ギュール。 彼のことを想うと、胸がきりきりしめつけられるような感覚に陥る。 技術以外の授業はもとより、友人たちと遊んでいる時も、家で一人で過ごしている時も、劾の頭に浮かぶのは、そこぬけた明るく無邪気な笑顔のロウである。 (重症だな) 立ち止まり、ため息を吐いた。 普段は格好いいのに、彼は授業――自分の好きなことを話している時、子どものように無邪気に笑う。 それが、劾はとても可愛いと想うのだ。 だが、ロウも劾も同じ性別であり、加えて、ロウは年上だ。劾よりも5〜6歳くらいしか違わない。 にもかかわらず、可愛いと思ってしまう。 「・・・・・・行くか」 劾は重い足を動かし、ロウがいる技術準備室へ向かった。 * * * 技術準備室の前に経った劾は、深呼吸をし、扉を2回ノックした。 「?」 反応がなかったため、1回目よりも強めにノックしたが、それでも反応がなかった。仕方なく、劾は「失礼します」と言って、準備室の扉を開けた。 準備室に入ったが、ロウの姿は見当たらない。 職員室にでもいるのだろうか? ロウにあえなかったことは残念だが、とりあえずレポートを彼の机上においておく事にした劾が、机に近づくと、スー、スー・・・という寝息が聞こえてきた。 見ると、来客用においてある長ソファーに、彼の探していた教師が眠っている。 (疲れているのか?) 机を見れば、学校指定の教科書や教材の説明書にカタログ、参考書と思われる雑誌などが無造作に重ねられおかれており、それ以外にもプリントとデスクトップパソコンがおいてある。 僅かに空いたスペースにレポートを置き、劾は膝をついて眠っているロウを眺めた。 トレードマークとなっているヘアバンド(バンダナ)は外され、逆立った髪は重力に従い垂れている。琥珀色の瞳は今は閉じ、はっきりとした声を発する口は薄く開いている。 そっと彼の髪をすいてみる。くせ毛の自分と違い、硬いながらも引っ掛かる事無く指の隙間を通り抜けた。 (何で、この人は) 子どものような無邪気な寝顔をしてるのだろう。 「―――・・・」 気づいた時、劾は目を閉じて己の唇を、ロウの唇に押し当てていた。 重ねて、触れるだけのキス。 どれくらいそうしていたのだろう。 「っっ!!!」 我にかえった劾は、慌てて唇を離し、真っ赤になりながら技術準備室を出て行った。 夕焼けに染まる校舎を劾は駆け抜けていく。遠くから吹奏楽部や合唱部の練習、グラウンドから運動部の掛け声が聞こえてくる。 だが、劾はそんな事を気にしているほど余裕はなかった。 (オレは何てことを・・・!!) 何故、ロウに口付けてしまったのか、自分でも理解しがたい行動をとった劾は、頭を冷やすべく、自分の教室へ走っていた。 * * * 一方、技術準備室の主であるロウもまた、真っ赤になって己の唇を押さえていた。 「あいつ・・・」 実は、ロウは劾が準備室に入ってきた時、僅かに覚醒していた。 ただ単に目を開けるのが億劫になっていたロウはそのままの状態でいたら、劾が突然口付けてきたのだ。 「・・・バカ・・・」 自分に対してなののか、劾に対してなのか。 その呟きは、誰に聞かれる事なく消えていった。 END |
後書き
たまにはいつもと違いシュチュエーションで。