20.惚れさせた責任 「平和だな」 「平和だね」 戦時中とは思えない台詞を平気で吐くのは、ジャンク屋のロウ・ギュールとカズキ・ユーティリティだった。 オーブ近郊の島にて、ジャンク屋組合主催のバザーが開催され、ほとんどのジャンク屋がこの島に集まっていた。 集まっているのは、何もジャンク屋だけではない。冷やかしか無断で飲食店を出している島の住民や部品を格安で仕入れようとしている傭兵などだ。 「告知してないのに、良く人が集まるな」 ロウが疑問を口にする。 そう、このバザーは大々的に告知していない。にも拘らず、ジャンク屋組合員以外の人間が、かなり見受けられるのだ。 「それはね、仕事とかで知り合った人達だけに情報を流しているらしくて、それが人から人に伝わって、集まるらしいの。島のほうにも許可をとっているから、島の人達は前々から知ってるみたいだけどね」 「あー、なるほど」 情報の流れは早い。それは自分達にとって利益となる情報ならなおさらだ。 戦時下において、傭兵などが破損した部品などを買い換えるのは容易な事ではない。ほとんどが軍に流れ、高価な正規品は一般市場には出回りにくいのだ。 だから、戦争によって放棄された物(ジャンク)の回収・修理を行い、安く販売してくれるジャンク屋は彼らにとっては有難い存在である。そのジャンク屋が主催するバザーでは、探している部品などが大量に、普通に販売されている以上に安く手に入る為、ほとんどの傭兵がこのバザーを訪れるのだ。 「そう言えばよ、カズキの所は何を出したんだ?」 「私のところ?」 「ああ」 このバザーでは度々オークションが行われ、自分が見つけ改修したジャンクを出展する事がある。 「オレの所は、ちょっと手を加えたレイスタを出しだぜ」 レイスタ、というのはジャンク屋が作った民間用モビルスーツの事で、機体を構成するパーツのほとんどがジャンクパーツで作られている。 「カズキの所は何を出したんだ?」 「頭部のセンサーが、過剰すぎる反応を示すダガーの頭部を出した」 「ダガーは元々センサーの性能が良いんじゃないのか?」 ロウの言う事は尤もな事だ。 地球連合軍が主力機として開発した量産型MS、正式名称はGAT−01A1ダガー(105ダガー)は、それまで起用されていたストライクダガーより高性能のセンサーがつけられている事が特徴だ。 「そうなんだけどさ・・・拾った当初、センサーがいかれていたんだ。修理していた時、ウチの馬鹿がね『ゴーストレーダー』をセンサーに組み込んじゃって・・・」 「それで、過剰な反応を示すのか」 「ああ」 カズキはため息を吐いた。 彼女が称した『ウチの馬鹿』とは、カズキと組んで仕事をしているルーメン・ピアフという少年の事だ(もちろん、一緒に組んで仕事をしている人間は、後3人いる)。 「ま、あいつらしいがな」 「あんまりそういう台詞を言わないでよ」 カズキ苦笑しつつ、ロウに軽く突っ込みを入れた。 すると、ロウは誰かの視線を感じたらしく、周囲をキョロキョロと見回すと、見知った人物を見つけた。 「劾!」 叢雲劾だった。 劾を見つけたロウは嬉しそうに彼に駆け寄り、カズキは変わらないペースで彼を追いかけた。 「何でここにいるんだ?」 「ジャンク屋のバザーがあるからだ」 ロウの問いかけに、劾はぶっきらぼうに答える。 「ロウ、そちらの方は?」 「ああ、こいつは傭兵部隊サーペントテールのリーダー、叢雲劾だ」 「サーペントテールって、ロウが何時も言っている傭兵部隊の?」 「そうだ。劾、こいつは、俺と同じジャンク屋のカズキ・ユーティリティだ」 「カズキ・ユーティリティです。貴方方の話は、何時もロウから聞いています」 「サーペントテールの叢雲劾だ」 そのまま3人で、しばらくの間、話をしていたが、用事を思い出したカズキは二人にその事を告げた。 「じゃあ、私はちょっと用事を思い出したから」 「もう行くのか?」 「うん」 カズキはその場から立ち去ろうとした、が。 「見つけたぞ、ロウ・ギュール!」 その声に驚いたカズキが振り返ると、黒いマント(ケープ?)を羽織った青年がロウ達と対峙するように立っていたのだ。 その青年から庇うように、劾がロウの前に立つ。 「何だ、あんたは?」 「私はロンド・ギナ・サハク」 その名前が響いた時、周囲にいた人々に旋律が走った。 オーブ五大氏族・サハク家の人間が、一介のジャンク屋に何の用があると言うのか。 「あんた、何やったの?」 「俺が知るかっての!」 「ロウに一体何の用だ?」 劾は口調こそ落ち着いているものの、その声には怒りが含まれている。 「傭兵、貴様には用は無い。私が用があるのは、ロウ・ギュール唯一人!」 劾に睨まれようが、ギナの高飛車な言い方も変わらない。 「俺に何の用だ!?」 「貴様に責任を取ってもらう、それだけの事だ」 「責任だと?」 「そうだ」 知らないで買った恨みほど、怖いものは無いからね。 カズキは自分の思考と自分達を取り巻く雰囲気に、内心苦笑する。 自分たちを取り囲むように野次馬が集まっているし、何より、劾とギナの睨み合いが続くのだから。 「あの、ロウと貴方は初対面のようですが、ロウに何の責任があると?」 一触即発の状態を回避するため、カズキが慌ててギナに問いかける。 ロウの言葉などを冷静に分析すると、ロウとギナが初対面である事は簡単に分かるのだ。 「貴様が知らなくても私は知っているのだ。そう・・・貴様に出会ったあの日から、私は貴様が忘れられない!」 「え?」 「はぁ!?」 「・・・」 ギナの言葉に、カズキとロウは驚きの声を上げ、劾はこの事を予想していたのだろうか、やけに落ち着いている。 ・・・あのー・・・滅茶苦茶・・・嫌な予感がするんですけど・・・。 カズキの女性としての勘が当たれば、それは・・・。 「私を惑わせた罪は重い!」 「分け分かんねぇって!つか、何の話だよ!」 「惑わせるって、どういう意味よ!!」 素早く2人で突っ込みを入れる。しかし、自己の世界に浸っているギナにその突っ込みが届く事は無く・・・ 「貴様と出会ってから、何をするにも貴様の事が忘れられず、何も手につかないのだ」 むしろ、危ない方向に進んでいる。 「えーっと、それはつまり・・・」 ロウは冷や汗をかきながらも、ギナに問いかける。 「私は貴様が忘れられない。それは貴様が好きだと言うことだ!」 やっぱりぃぃぃいいぃぃっっっ!!! 声を上げずに、カズキは絶叫する。当たって欲しくない勘が、当たったのだ。 ロウも何を言われたのか、さっぱり理解できていないようだ。否、理解したくないだけだ。 この場合、何か助け舟を出した方が良いのだろうか? 思考していると、それまで黙っていた劾が口を開いた。 「ロンド・ギナ・サハク、貴様のようなヤツに、ロウを渡すわけには行かない」 「劾!?何言い出すんだよ!?」 「そのままの意味だ。ロウ、俺もお前の事を愛している」 「あんたも何を言い出すんだ!!」 ロウと劾とギナのやり取りを、周囲にいた女性陣はキャーキャー、黄色い声を上げながら嬉しそうに見ていた。 それとは反対にカズキは唖然としつつも、至極冷静に見つめていた。 ・・・つまり・・・うん・・・あれってわけね・・・・。 「・・・まあ、頑張れ」 「助けろよ!!」 「無理」 カズキは戦友(とかいて、拳と拳で友情を深める仲、と読む)の将来の身を案じたのだった。 END |
後書き
ギナ様VS劾→ロウ+オリキャラでした。
オリキャラ・カズキ視点はとても書きやすかったです。
ギナ様も劾もかなりキャラが変わってしまいました(汗)
2006/6/18