19.街角に佇む猫



どこにでもある公園の人気が無く日当たりの良い場所に、彼はいる。
誰にも邪魔される事無く過ごせるこの場所は、劾にとって大切な場所だ。
劾は野良猫だ。
母親の記憶など無く、生まれた時から一人だったようなものだ。
無論『劾』という名前は自分でつけたものではなく、以前、食事を与えてくれた人間が勝手につけた名前であり、彼自身がわりと気に入っている名前だ。
柔らかな光を浴びて丸くなっている劾の耳に、ある足音が聞こえてくる。
徐々にその足音は近づき、しげみから三毛猫がひょっこりと現れた。

「劾!」

三毛猫のロウは劾の姿を確認すると、走るスピードを速めて、劾の柔らかな毛並みに飛びついた。
自分の短い毛並みと違い、劾の毛並みはふわふわで温かい。ロウはそんな劾に擦り寄る。
ロウは、劾が最も心を許した猫であり、最近この街に越してきた飼い猫だ。
野良猫の劾と違い、家で育てられたロウは世間知らずで目が離せない。
また、越してきて日は浅いが町に住む猫たちとそれなりに仲が良いが、自分に一番懐いている。
一度、ロウは保健所につかまりそうになったが、劾のおかげで助かった事がある。その出来事もあってか、ロウは劾にすっかり懐いていた。
偶然この場所にやってきたロウを出会った当初は警戒していたが、ロウの無邪気さにすっかり毒気を抜かれた劾は、今ではとてもロウを可愛がっている。

「アイツな、今シケンチュウとかいって遊んでくれないんだ」
「そうか」
だから劾が遊んで。
擦り寄ってくるロウに答えるかのように、劾がロウの身体を舐めてやる。
ロウのさす『アイツ』とはロウの飼い主であり、ロウと一緒にいると野良猫の劾にも食事を与えてくれる人間だ(彼女は劾を『でっかい猫くん』とよんでいる)。
「劾、昨日の風凄かったよな。大丈夫だったか?」
「ああ。問題無い」
云われて、劾は昨晩は風が強かったな、とぼんやり考えていた。
だが、長年野良猫として生活してきた劾にとって、雨風をしのげる場所はいくらでもあるため、心配無用だ。
「劾がいなくなったら、オレ、やだからな」
まるで劾の存在を確かめるかのように、ロウが擦り寄る。
「安心しろ、お前を置いて死ぬつもりは無い」
「うん」
劾の答えを聞いて安心したのか、ロウは劾に擦り寄ったまま、舟をこぎ始めた。
しばらくすると完全に眠ってしまったらしく、その身体を舐めても起きる事は無い。
しばしロウの眠る姿を見た劾は、ロウと同じように眠り始めた。


二匹の猫が仲良く寄り添って眠る、そんなある日の出来事。


  END



後書き
 劾の誕生日を大幅に過ぎていて、急いで書きました。
 今回は以前ネタとして書いた「ASTRAYキャラを猫化してみよう」のネタを起用しました。
 劾はふかふかの毛並みのノルウェージアンフォレストキャット、ロウは三毛猫です。
 叢雲さん、お誕生日おめでとうございます.
 
余談ですが、ロウの飼い主はオリキャラのカズキです。大学進学を機会に一人暮らしを始めた大学生です。