3月26日

それは君が生まれた日




  
想いを込めて





「これ、やるよ」

そういってロウに長方形の箱を差し出したのは、通称『野次馬』のジェス・リブル。
縦40センチほどの箱は、丁寧にラッピングされている。
「何だよ、急に」
「今日はロウの誕生日って聞いてさ。俺からの誕生日プレゼント」
「じゃ、ありがたく受け取るぜ」
それを受け取ったロウはそのラッピングを外していく。
シンプルでありながら存在感のある木製のフレーム。そこに収められているのは、鮮やかな黄色の小さな花の写真。
「きれいな花だな」
花を愛でる習慣のないロウだが、この時ばかりは正直な気持ちを言った。
「メランポジウムっていう花なんだ」
結構自信作だぜ。
ニッとジェスが笑う。どうやら、この写真はジェス本人が撮った物のようだ。
「ま、部屋にでも飾ってくれよ」
「おう、ありがとうな!」


 * * *


「おい!」

背後から呼ばれたろうが振り返ると、そこには、カナード・パルスがいた。
「カナード。どうかしたのか?」
立ち止まると、ズカズカとカナードがロウに近づいてくる。
そして、後ろ手に持っていたモノ――赤やピンクの細長い、チューリップの花束を、ずいっと差し出した。
「やる」
「へ?」
ロウは差し出された花束とカナードを交互に見た。
「お前にはカリがある」
「いや、分け分かんねーし・・・」
「お前の誕生日だと聞いた。何をやれば良いのか、見当もつかなかった」
「だから、コレってわけか?」
「そうだ。この俺がやるんだ。ありがたく受け取れ」
どこまでも偉そうなカナードである。
だが、それもまた彼なりの好意の表現であることを知っているロウは、嫌がる事無く受け取った。
「ありがとうな、カナード」
「ああ・・・それより、お前が持っているものは何だ?」
「ん、ああ、これか?」
脇に抱えていたものを示され、ロウは何気なくそれをカナードに見せる。
「ジェスから貰ったんだよ。お前と同じように、俺の誕生日プレゼントだってよ」
途端、カナードの表情が歪む。
「あいつもか・・・」
「?」
「何でもない、こっちの話だ」
其れだけ言うと、カナードはそのまま去っていった。
「・・・何なんだ、一体?」


 * * *


「ロウ、ちょっと良いか」

そう言ってロウを呼び止めたのは、アグニス・ブラーエだ。
「何だ、アグニス」
「あー・・・その・・・」
罰が悪そうな表情のアグニスだが、決めたのか持っていたモノを差し出した。
「これって・・・花か?」
「ああ。パンフラワーとか言う粘土細工だそうだ」
「へー」
「今日は誕生日なんだろう。今まで世話になったから、そのお礼だ」
ロウは左手に持っていたチューリップの花束を右手に持ち替えて、それを受け取る。鮮やかな赤の花束だ。
「花はガーベラだ」
「それって、俺の武器がガーベラストレートだからか?」
「そうだ」
ロウの武器が「ガーベラストレート」で、MSの色は赤。それにちなんでなのだろう。アグニスがロウに送ったものが、真っ赤なガーベラなのは。
「気ぃ使ってもらって悪いな」
言うと、アグニスは首を横に振る。
「いや・・・オレが贈りたかっただけだ。気にするな」
「そうか?」
「それより・・・」
「?」
アグニスもまた、ロウの持っているものが気になったのか、じっとロウの持っているものを見た。
「これか?」
「ああ」
「これな、ジェスとカナードから貰ったんだ。やっぱお前と同じように、俺への誕生日プレゼントだってよ」
「・・・そうか・・・」
アグニスは何か言いたそうな表情だが、何も言わなかった。


 * * *


まさか、いつもの面子以外からも誕生日プレゼントがもらえるとは、思ってもいなかった。
誕生日に対して、ロウはあまり執着しておらず、毎回、友人が誕生日を祝ってくれて、ようやく思い出す。尤も、周囲の友人たちも本人もその事を今まで全く気にしていなかった――今までは。
だが、今回の誕生日は、多くの人々に祝ってもらえた。


そして。



「久しぶりだな、ロウ」

「劾!いつここに着たんだ?」
「つい先刻だ。せっかくのロウの誕生日だ。祝わないわけには、いかないだろう」
わざわざ自分の誕生日に合わせて、劾がやってきてくれた――その事が、本当に、ロウは嬉しかった。

「――それはともかく」

「?」
「お前が手に持っているものは何だ?」
・・・何か、こう・・・やけに、
迫力というか、威圧感があるというか・・・。
「えっと・・・ジェスとカナードとアグニスから貰った、誕生日プレゼント・・・です・・・」

「・・・」

沈黙が、とても怖い。
劾は基本的に穏やかな(?)な人間だが、他人の何倍も嫉妬深い。
その嫉妬は、ロウに対してのもの。仕事柄、頻繁に会えないから、余計その想いが強いのだ。

「・・・先を越されたか・・・」

残念そうに劾が呟いた。
「へ?」
「せっかくのロウの誕生日だから、俺が一番最初に祝いたかったんだがな・・・」
「や、忙しいのに逢いに来てくれたんだし・・・オレはそれだけでも嬉しいんだぜ?」
それは紛れも無いロウの本音。
「だが・・・」
「堅く考えるなって。な?」
「・・・そうだな・・・」
そう言うと、劾は持っていた花束をロウに差し出した。

「改めて・・・誕生日おめでとう、ロウ」
「ありがとうな、劾」
嬉しそうにロウは花束を受け取る。
「白い・・・バラか?」
「そうだ。お前にピッタリだと思ったんだ」
汚れ一つ無い、純白のバラ。それは、何があろうとも染まらない、純粋で穢れ無きロウに相応しいと、劾は思ったのだ。
「そうか?」
「ああ――よく似合っている」
女じゃあるまいし、似合っているという表現はどうかと思うが・・・劾からの言葉だから、素直にそれを受け取った。
「それにしても・・・」
「?」
「いや・・・」
自分の恋人は、大勢の人間に愛される人間なのだ、と劾は改めて実感した。
「折角の誕生日だ。俺の部屋で過ごさないか?」
その言葉に、ロウは悪戯っ子のように笑った。
「はじめからそのつもりだったんだろう?劾の誘いなら、大歓迎だぜ」
「そこまでいうなら・・・今夜は寝かさないぞ」
「・・・それは勘弁して欲しいな」


END




後書き
 ロウ誕生日おめでとう!と、いう事で、ロウの誕生日小説でした。
 コンセプトは「みんなロウが大好き!」。流石にオールキャラを出すのは大変なので、ASTRAYシリーズ(X〜Fまで)主人公に登場していただきました。
 各キャラがロウにあげた花ですが・・・
  ・ジェス→「メランポジウム」・・・あなたは可愛い
  ・カナード→「チューリップ」・・・恋の告白
  ・アグニス→「ガーベラ」・・・神秘
  ・劾→「バラ」・・・相思相愛
 花言葉に、特に意味はないような、あるような・・・。最後は劾×ロウですけどね。