Happy birthdayを君に





「おはよ〜」

はチェックのパジャマ姿のまま、目を擦りながらダイニングに下りてきた。
「おはよう」
「もう、おそよう、よ」
既に朝食を終えた両親は、朝のニュースを見つつ、くつろいでいた。
画面の端に写っている時間は9:30。
「早く顔洗ってきなさい」
「は〜い」
は欠伸を噛み殺しながら洗面所に向かおうとした。
ふと、彼女の鼻腔を掠める、甘い香り。
その香りがする方を見れば、電子レンジの中で、ふっくらと膨らんでいくものがあった。
「何作ってるの?」
「ケーキよ」
「ケーキ?」
何でケーキなんか作ってるんだろう、 は頭に疑問符を浮かべた。
「まあ、忘れても仕方ないわね」
母の言葉に、父はただ苦笑するばかり。
「今日は のお誕生日でしょう?」


・・・・・・・・・。


「・・・あ」


忘れていたらしい。
昨日、遠方の友人達から誕生日を祝う手紙が届いていたのに、 はすっかり忘れていた。
「ケーキの他にも色々用意してあるから、早く着替えてきなさい」
「は〜い」
は洗面所に消えていった。
「珍しいな、 がこんなに遅くに起きてくるなんて」
「きっとビーダマンの調整でもしていたんでしょう」

母、当たらずも遠からず。
次の日が日曜日という事もあって、 は夜遅くまでビーダマンの改造案を練っていた。
JBAで借りた資料や、インターネットで調べているうちに、すっかりいつも寝る時間を過ぎてしまった。
そんな訳で、いつもより遅い起床となってしまったのだ。
洗顔ソープで顔を洗い、自分の部屋に戻り着替えた は、再びダイニングに下りてきた。





母が作ってくれた簡単な朝食を食べ終えると、父は『プレゼントを買ってくるから』と言って出かけた。
しばらくTVを見ていたのだが、政治など興味のないものに変わってしまった。

昔の友達から手紙をもらえて嬉しいが、今の友達からも祝ってほしい、の の心情だ。


しかし、今の友達に自分の誕生日を教えていないし、彼らの誕生日も知らない。

『ヨソモノ』を受け入れてくれただけ、感謝しなきゃ。


そう考え、 も図書館へ出かけた。





図書館で本を読み漁った の帰宅は12時ギリギリ。
「ただいまー」
玄関を開けると、幾つかの靴が彼女の目に飛び込む。
不思議に思いつつ、家へ上がり、ダイニングの扉を開けた。
瞬間、




パーンッ!




弾ける音と共に舞い散る紙吹雪と火薬の匂い。
何事かと思い、部屋を見回してみると、いつも一緒にバトルをしている仲間達がいた。


『Happy birthday』


異口同音に解き放たれた言葉に、 は唖然とするしかなかった。
「み、みんな・・・?」
何でウチにいるの?
言おうと思ったが、口がうまく回らない。
「今日は の誕生日だろ?」
「皆で さんの誕生日を祝おうと思ったんだ」
タマゴとサラーの台詞に、 は目を丸くする。


―――え?


自分の誕生日を教えた覚えはないはず。
「何でって顔してるね、
「そ、そりゃあ・・・」
ビリーの台詞に は慌てるような、戸惑うような視線を投げかけた。
「最初にJBAで簡単なプロフィール書いたやろ?そんでDrに教えてもらったんや」
だから、祝おうと思った。
言われて、 は母を見た。
「ついこの間ね、電話があったのよ。 の誕生日を祝いたいって。
折角だから、皆でお祝いしましょうって提案したの」
が出かけた頃を見計らい、皆を呼んで準備をしたらしい。
「主役も来た事だ。誕生会を始めようじゃないか」
父に促され、テーブルへ向かった。
テーブルには、母の手料理と少々見てくれの悪い のケーキがある。
おそらく、このケーキは土台だけ母が焼き、飾りつけはタマゴ達がやったのだろう。
慣れない作業に悪戦苦闘する姿は、容易に想像できた。
可愛らしい書体の数字のローソクがケーキの上に刺さっており、父が火を燈した。



『HAPPY BIRTHDAY TO YOU〜
 HAPPY BIRTHDAY TO YOU〜
 HAPPY BIRTHDAY DEAR
 HAPPY BIRTHDAY TO YOU〜♪』


歌われたのは、誕生日定番の『HAPPY BIRTHDAY』。
最期のフレーズが終わると同時に、 はローソクに息を吹きかけた。
ローソクの火は消え、再びクラッカーがなる。

『おめでとう!』

皆から祝福の言葉を受け、 は頬を赤く染めながら言った。

「ありがとう」

と。



願いは一つ、大好きな君にHappy birthdayを贈りたかった。



   END