「真田さん・・・」 肩に担がれた兵悟が戸惑いながら声をかける。だが、真田から返事は返ってこない。 人一人を肩に担いで悠々とかなりの早さで歩く真田の姿に飲み屋街の人々は驚き、みんな興味津々と言った目を むけるが、真田はそれにすら気に留める風はない。 「真田さんっ!!」 もう一度、今度ははっきりと真田を呼ぶと、ようやく立ち止まる。 「俺・・・そんなに酔ってませんから・・・。歩けま・・・」 歩みを止めたことで体を起こしやすくなった兵悟は鍛えられた背筋を活用して、体を起こす。そして、いつもは 見下ろす事のない真田の目を見て、丁重に断ろうとして、最後まで言葉を告げることは出来なかった。 兵悟を見上げた真田の表情はいつもとそう大差ないのに、目が違うのだった。 もし本当に眼だけで人を殺せるとしたら、絶対に殺せる!というような眼光を湛えた鋭い目で兵悟を見ていた。 黙った兵悟を降ろす事もせず、きっかり90度に方向転換すると、店と店の間の細い路地に足を踏み入れた。 「さ・・・、真田さん?」 帰る方向とは違う路地は暗く、ネオンになれていた兵悟の目は真っ暗な闇に包まれ、反射的にキュッと目を閉じると、 ふわっと体が浮く感覚がして、靴の裏に地面の感覚が戻る。 ホッと安心したのもつかの間、両の手首を痛いくらいの力で掴まれ、壁へと押し付けられ、目を開けてみれば、 わずかに差し込むネオンに横顔を照らされた、真田が兵悟に覆い被さるように目の前にいる。 そして、そのままの体勢で顔だけわずかに傾け、兵悟の唇へ自分の唇を重ねた。 「んっ・・・?!」 驚きに目を見開き、掴まれた両腕を何とか振りほどこうとする兵悟を気にすることなく、口付けは続けられる。 最初は短く、唇と唇を合わせる。離れては合わせられ、合わさればまた離れる。 何度も合わさる唇から与えられる心地よさに兵悟が抗えるはずもなく、ギュッと力を入れていた拳は緩み、真田と距離を とろう緊張し、痛いほどに壁に押し付けていた背筋は弛緩し、ズルズルと重力に従いつつあった。 わずかに体内に残っているアルコールも手伝って、膝も抜け始めている。それでも落ちないでいられるのは 掴まれた両手首に支えられているからだった。 「ぁっ・・・んっぅ・・・・っ」 人工呼吸の体験はそれなりにある兵悟だったが、キスの経験をつみ始めたのはごく最近。経験相手は言わずもがな、 今現在、唇を塞いでいる人物である。 「・・っゃ・・んっ」 息苦しさにわずかに唇を開き、吐息が漏れ出始めると真田はその隙間さえ埋めようとするように角度を変え、 深く唇を合わせた。 「ふっ・・・」 一度緩んだ唇を引き結ぶ事は出来ない。 ゆっくりと確実に真田は兵悟を支配していく。 脳髄は甘く痺れ、思考回路は止まり、唇から唇へと与えられる快楽の波に兵悟はさらわれる。 「んっ・・・さな・・っ・・・・ぁん」 唇が深く深く合わさる、その合間に兵悟はただただ夢中で真田の名を紡ぐ。 どちらのとも言えない、混じりあふれ出た唾液が互いの唇を濡らし、兵悟の唇の端から頤を伝い、 すらりと伸びた喉元をも濡らした。 ゆっくりと目を開けた真田の眼前に目頭に涙をため、ギュッと目を閉じる兵悟がいる。 わずかに見える頬は紅潮し、涙も今にも零れ落ちそうで真田は唇を合わせたまま、微笑み、 すでに抵抗を忘れた腕を離す。重力に従った腕はずるりと壁を伝い落ちる。空いた手で兵悟の頭と腰を支えると さらに深い口交を求めるように、互いの距離をゼロにするように真田は引き寄せ、キスをし続けた・・・。 完全に膝に力が入らなくなった兵悟を担いで真田は路地を出ると、周囲の目も気にせず、タクシーを拾い、 兵悟がボーっとしている間に自室に運び込んだ。 「水を飲むか?」 ソファーに静かに下ろすと、上着を脱ぎながら真田は尋ねる。まだボーっとしているとはいえ、 質問は理解しているらしい兵悟は首を小さく左右に振る。 「それとも、カフェオレでも飲むか?」 上着をソファーに無造作に放り投げる様子を焦点の合っていないだろう目で追った兵悟は小さく頷いた。その頭を くしゃりと撫で、真田はキッチンへと向かう。 ・・・ポスッ。 真田の気配が遠退いた途端、瞼が重く感じ、体が揺らぎ、その欲望のままに体はソファーに沈んだ。 倒れこんだ先にはさっき、真田が放り投げた上着。 ふわっと鼻腔をくすぐる真田の残り香に反応して、脳が心地よさをフラッシュバックさせる。それと同時に 反射的に頬が紅潮してしまう。 「・・・んっ」 たったそれだけのことなのに、重く鈍くなった体と反比例して敏感になっている神経が全身を廻る。 つい最近まで知らないに等しかった・・・、つい最近知ってしまった欲望というものに神経がジワジワと昂ぶり、 侵されていくのがわかる。 「兵悟・・・。さっき、五十嵐になにを言われていたんだ?」 カフェオレとブラックコーヒーを持った真田がだいぶ治まったとは言え、未だ怒気を孕む声音で尋ねながら、 兵悟の頭の方に空いているところへと腰掛ける。 せっかく持ってきたカフェオレだったが、兵悟に体を起こす気配もなく、真田も強要する気もないので 机の上に置かれた。 「・・・独占欲が強いわよ・・・って」 服に顔を埋め、篭った声でポツリポツリ答える。 「ちょっかい出すと無表情で凄い目で人を見るって・・・」 気だるげに顔を上げた兵悟が潤んだ目で真田を捉える。 「俺・・・わからないです・・・って言ったら、五十嵐機長に急に・・・」 不意に柔らかな感触を思い出し、少し紅潮していた頬が、さらにパァァァッ!と見事なまでに紅く染まる。 「・・・そうか」 わざわざ五十嵐はそれを実演したのだとさっきまでの行動に合点がいき、ちゃんと厳重注意をしなければならないと 思うものの、あの五十嵐が素直にそれを聞くとも思えず、頭が痛い思いがした。 ただ、それよりも今は、兵悟の反応を見て鎮火に向かっていた怒りの炎が燃え立つ思いに立たされた。 「確かに・・・、その通りだと思うぞ」 飲みかけたコーヒーを机の上に置くと、無造作に兵悟を抱きかかえる。 「真田さん・・・?」 急に景色が揺れた兵悟はギュッと真田にしがみつく。 「そのまま、つかまってろ」 耳元で囁くと、真田は器用に兵悟の服の脱がせ始めた。 「えっ・・・?!さな・・・」 「五十嵐の匂いが移っている。腹ただしいから、このままシャワーを浴びるぞ」 抵抗する間もなく、ズボンが床に落ち、肩で支えられたかと思えばするりと上着が抜ける。いつの間にかTシャツと 下着だけにされた兵悟を抱え、真田も片手で器用にズボンの前を寛がせた。 「一人で・・・入れます!」 じたばたしようにも散々、体の中を燻っていた昂ぶりに神経を侵されきっていた兵悟の抵抗は敵わない。 「本当に俺は独占欲が強いから・・・。俺が洗い流したいんだ」 それに・・・お前もベッドまで待てそうにないだろ? 耳元でそう囁かれ、兵悟は真っ赤になって黙るしかない。 おとなしくなった兵悟の残りの着衣をさっさと器用に脱がせると、兵悟を抱きかかえたまま、やはり器用に 、自分の着衣も脱ぎ捨て、満足げに微笑み、風呂場のドアを閉めた。 酔いがさめ、しばらくしてからようやく自分たちの関係が五十嵐機長やその他面々にバレバレなのだと 兵悟は気づき、真っ赤になったり、真っ青なったりしたのはまた後日談。 |
E n d |
壬紅梅様からいただきました! 「真兵ベースで、兵悟総受け」というムリな事をお願いしてしまいましたが、リクを受けてくださって、有難うございます! 兵悟可愛い、真田さん嫉妬深い、盤変態(え?)、五十嵐さん暴走〜 UPしてくださった日は、嬉しくてパソコンの前で嬉しさのあまり、小躍りしてました(母にはかなり怪しがられましたが・・・) 有難うございました!! |