ヴァレンタイン・パニック



 2月のある日、アカデミーの一角の教室は異様な雰囲気に包まれていた。
  と、言うもの、そこにいる全ての生徒の目が1人の人物に注がれているからである。
 机に突っ伏して寝ている少女・ 
 その可愛らしい容姿と明るく元気な性格から、同世代の下忍はおろか、中忍・特上・上忍など、色々な人々から想われいる。
 しかし、本人はまったくそのことに気づいていない。
 は恋愛に関しては、他人の事も自分の事も鈍いのだ。

、起きなさいよ」
  サクラが寝ていたを起こす。
が眠たげに目を擦り、大きく伸びをした。
「何〜?」
「明後日がヴァレンタインだって事は知ってるわよね?」
「一応ね」
  それが何?
  と言いたげにサクラを見る
は誰にチョコ上げるの?」
  今度はいのだ。
  その言葉を聞いた男子は目を光らせた。

ちゃんてば、誰にあげるだってばよ〜)
・・・お前のチョコは俺が貰ってやる・・・)
(めんどくせぇけど、がくれるんだったら貰うぜ)
の料理っておいしいよな〜)
さん、貴女の熱い想い僕受け止めます!!)


  など・・・勝手に妄想を広げているが、の口から出た言葉はあまりにも残酷なものだった。

「私はいつも通り、みんなにあげるよ」

  と。

「で、でも・・・好きな人はいるんでしょう・・・?」
  オズオズとヒナタが問いかける。
「・・・いるわけ無いじゃん」
 はそう言いつつ、明後日の方向を見ていた。

(あの目は・・・)
(いるわね・・・!!)
(絶対いるわ・・・)
(だ、誰なのかな・・・?)

  サクラ・いの・テンテン・ヒナタがアイコンタクトをした。

  一方、こちらは教室の外。
  気配を消した上忍や特上達が聞き耳を立てていた。
「相変わらずは可愛いわね・・・」
ってば誰に本命あげるのかな?」
「ゴホ・・・あなたじゃないことは確かでしょう」
 上から、アンコ・カカシ・ハヤテである。
  その他の上忍・特別上忍がいたりする・・・。


 決戦は、ヴァレンタインデー当日です。


 そして、問題のヴァレンタイン当日・・・。
 はあらかじめ用意しておいた紙袋の中に、握りこぶしほどのパステルピンクの袋を詰めた。 その中には、少し大きめのパステルブルーの袋があった。
「よし!」
 カバンと紙袋を引っさげて、は家を飛び出した。


  アカデミーにつくと、教材を運んでいるイルカが目に飛び込んできた。
「イルカ先生、おはようございます」
「ああ、おはよう、
「これどうぞ」
 は紙袋からパステルピンクの袋を取り出した。
「いいのか?」
「はい。先生にはいつもお世話になっていますから」
 ペコリと会釈すると、は教室へと走っていった。


「おっはよー!」
  ガラリ、教室の扉を開けると、その場にいた者たちの視線が一斉にに向けられる。
 はいつもの女子が集まる席にやってきた。
「はい」
  サクラ・いの・テンテン・ヒナタにそれぞれパステルピンクの袋を差し出す。
「いいの?ありがとーv」
「アリガト、
「悪いわね」
ちゃん、ありがとう・・・」
「いいの、いつもお世話になっているし」
 何やかんやお喋りに花を咲かせる女子グループ。
  男子グループは愛しい子からのチョコを今か今かと待ちわびていた。
「みんなはもうあげたの?」
「来た時にね」
「そろそろ・・・」
「あげた方がいいんじゃない?」
  自分達背後に感じる視線を気にしながら提案する。
「うん、あげてくる」
 は紙袋片手に男子グループに近づく。

「はい、シノっち」
「ありがとう」
「ナルトも」
「サンキューだってばよ、ちゃん!」
「サスケくん」
「おう・・・」
「シカマル」
「ありがたく貰っておくぜ」
「チョウジ、食べ過ぎないようにね」
「うん、ありがとう、
「リーくん」
「有難うございます!!さん!!」
「はい、ネジ君」
「ありがとう・・・」
「こっちがキバので、こっちが赤丸のね」
「サンキュー、
「ワンッ!」

  みんな他人のと自分のとを見比べいるが・・・大きさはどれも同じだ。
 
「授業まで時間あるねー」
「そうね」
「じゃあ、他の先生の所行ってくるね〜」

 紙袋を片手に再び教室を出る

  やってきたのは、人生色々。
 何となく入りづらいが、は意を決して人生色々の扉を開けようとした。

 スカッ、ギュッ

・・・あれ?

 ノブを握ろうとしたが、むなしくその手は空をきる。
 そして感じる他人の鼓動。

・・・あれー?

 は思考をフル回転をさせるが、自分に何が起きたのかさっぱり分からない。
ってばいつ見ても可愛いねーvv」
 という声が頭上から聞こえてきた、が、強い力で後ろへ引っ張られた。 見上げると、病人にしか見えない特別上忍が。
「ハヤテー、何邪魔すんのさ?」
 カカシは不満げにハヤテを見る。
「ゴホ・・・さんがあなたの毒牙にかかってしまうと思いましてね」
「ヒドイなー、いくら俺だってそんな事しないよ」
 そこでようやくは自分がカカシに抱きしめられていたことに気づいた。
 今はハヤテに後ろから抱きしめられている。
「あら、じゃない」
「あ、おはようございます、アンコさん」
「オハヨ」
 片手に缶のお汁粉を持ったアンコが現れ、ハヤテに抱きしめられているの頭をなでた。
「アンコさん、これ良かったらどうぞ」
 はパステルピンクの袋をアンコに差し出す。
「いいの?悪いわね」
「いつもお世話になっていますから」
  その笑顔に、女性のアンコはおろか、カカシ・ハヤテ、人生色々に待機している忍たちの顔が赤くなり、 ズキューン、という謎の音が心臓に突き刺さった。
「ホント可愛いわ、ったらー!!」
「うにゅ?」
 アンコはハヤテからを奪い、ギューッと抱きしめた。
「カカシ先生ー、ハヤテさん、良かったらどうぞ」
 はアンコ抱きしめられたまま、カカシとハヤテにパステルピンクの袋を差し出した。
「ゴホ、ありがとうございます」
「サンキューv」
「いいえ、いつもお世話になっていますから」
  その笑顔に悶えるバカ数名。
「あ、そろそろ時間なので」
  そうして彼女は戻っていった。


 昼休みです。

  早々と昼食を食したは紙袋を片手に街へと繰り出した。 里を疾走する
 目的はある我愛羅。
 彼らにどうしてもヴァレンタインのチョコを渡したかった。

 里を疾走すること15分。
 すると、土手に腰掛けいている我愛羅の姿をの目が捕らえた。
「我愛羅くん!」
 その声に我愛羅が振り向く。
か・・・」
「Yes!!」
 グッ!と親指を立てる。
「俺に何の用だ?」
「我愛羅くんのこと探してたんだ」
「俺を・・・?」
「うん」
 は袋からパステルピンクの袋を取り出す。
「はい」
 はその袋を我愛羅に差し出した。
「これは何だ?」
「ヴァレンタインのチョコレートだよ」
「ヴァレンタイン?」
「そ。ヴァレンタインは、好きな人やお世話になった人にお菓子を上げる日なんだよ」
  笑顔の
  その笑顔に見惚れる我愛羅。
(好きな人に・・・?は俺のことが好きなのか・・・?)

、俺も、お前のことが・・・」
  と、言いかけたところで、

「我愛羅と・・・?」

 我愛羅の姉・テマリと兄・カンクロウの登場である。
  二人の登場を快く思わない我愛羅と裏腹に、は笑顔で二人に近づいた。
「テマリさん、カンクロウさん」
  袋からパステルピンクの袋を取り出し、二人に手渡した。
「これどうぞ」
「何だ?」
「ヴァレンタインのチョコですよ」
「ヴァレンタイン?」
「はい。好きな人やお世話になった人にお菓子を上げる日なんですよ」
「「好っ・・・!?」」
 その言葉に驚く二人。
が俺のことを好きだ?)
(こんなに可愛いがあたしの事好きなんて)
 思わず危ない道に走ってしまいそうなテマリ。
「あ、そろそろ時間なので」
  片手を挙げると、はその場から去っていった。
 

 そして、放課後・・・

、この後皆で遊ばない?」
  サクラがに提案する。
「ごめん、この後予定あるんだ」
「そっかー・・・」
 と、サクラが袋の中に入っているパステルブルーの袋を見つけた。
、その袋は?」
「え、あ、こ、これ!?」
 慌てる
「分かったわ、それ、本命チョコでしょ!?」
  いのの声に、教室にいた下忍、教室の外にいた上忍・特上、こっそり後をつけてきた砂の下忍が反応する。
(本命チョコっ!!??誰に!?)
「そ、そんなたいそうな物じゃないよ!」
 顔を真っ赤にさせて必死に否定するを見て、いよいよ怪しく思えてきたサクラといの。 テンテンとヒナタは成り行きを見守っている。
「じゃ、私、約束があるから!!」
 おそらく光よりも早い(と思われる)速度では教室から出ていった。
 そして、その後を追う忍達・・・。

 無駄にチャクラを使いまくっている。

 

 がやってきたのは、里の一角に設けられている公園だった。
 は呼吸を整えている。
「危なかった〜、サクラちゃんといのちゃんたら、いきなり大声出すんだもん」
  う〜ん・・・と伸びをして、ベンチに腰掛ける。
  カバンから取り出した本を読みながら、は約束をした人物を待っていた。

ちゃんてば、誰待ってるんだってばよ」
を待たせるバカはどこのどいつだ?」
「めんどくせ〜な〜」


、待ったか?」
  と言う声が聞こえてきた。
 が声のしたほうへ目をやる。
 そこにいたのは・・・
「ゲンマお兄ちゃん!」

『ゲンマ(くん)(さん)!?』

 任務帰りの特別上忍・不知火ゲンマだった。
 母親同士が親友で、お隣さんのとゲンマ。 お互い一人っ子なので、はゲンマを実の兄のように慕い、ゲンマもを妹のように可愛がっている。
 現在、とゲンマの両親が長期任務で里にいないため、ゲンマにを見てもらっているのだ。
「遅いよ〜」
 私20分も待ってたんだからね!
  と起こるをなだめるゲンマ。
 普通に見ればとても仲の良い兄妹に思える。
 そう、普通に見れば。
 しかし、気配を消している忍び達からしてみれば、仲の良い恋人に見えるのだ。
 言っておくが、もゲンマもそんな関係ではない。 お隣さんで実の兄妹のように育っただけだ。
「で、俺に何の用なんだ?」
「あ、えっとね。これ作ったの」
 差し出したのはパステルブルーの袋。
「今日はヴァレンタインでしょ? だから、ゲンマお兄ちゃんの好きな南瓜でカップケーキ作ったの」
  袋を開ければ、きれいなセロファンで包まれた数個のカップケーキが。
「初めて作ったから、美味しいかどうかわからないけど・・・」
 最後のほうは声が小さくなっているが、ゲンマは気にせずカップケーキを1個口に含む。
「美味いぞ」
「ホント?」
「嘘言ってどうするんだよ」
  グシャグシャとより大きな手のひらで、の頭をなでる。
「ありがとな、
 は嬉しそうに微笑む。

「今日の夕食はどうする?」
「昨日は魚だったから、今日はお肉が良いな〜」
「へいへい。じゃあ、行くか」
「うん!」
 は差し出された手を握ると、ゲンマより少し遅れて歩き出した。


         END


おまけ

が好きな人って、ゲンマくんだったんだ」
「ゴホ・・・まさかゲンマさんだったとは・・・」
「思ってもみなかったわね」
ちゃん、あんなののどこが良いってばよ〜」
「あんなオヤジにを渡してたまるか!」


 など、好き勝手ほざいている輩がいました。


初のNARUTOドリです。
 ヒロインにゲンマのことを『ゲンマお兄ちゃん』とよばせたかっただけ。
 ゲンマさんは大人のお兄さんだから、ヒロインからしてみれば身近で憧れの存在なのです。
 かなり矛盾点がありますが、見逃してやってください。



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