県立遠誠高校。
偏差値も進学率も就職率もごく普通の高等学校だ。
何かしら問題を起こし警察沙汰になる生徒もいない。
全てにおいて普通だった。




   誠高校の書室での




PM3:45になる鐘が、遠誠高校の放課後が始まりを告げる。
部活動に精を出す生徒はまっすぐ部活に向かうし、帰宅部の生徒は早々と家路に着くし、教室で友達といつまでも お喋りに花を咲かせている生徒もいる。


話は放課後の図書室で始まる。

図書室に集まる生徒のほどんどは顔見知りなため、結構騒がしくなるのも学生らしいといえよう。
さて、放課後図書室に集まる生徒を紹介しよう。
「2年の鈴原君、まだ本返してないみたいね」
図書司書の石塚 雪穂(いしづか ゆきほ)。今年図書司書になったばかりの若い先生だ。
「そいつこの間も2ヶ月期限切れてましたよ」
3年の図書委員会委員長の鷹野 夏樹(たかの なつき)。結構美人で下級生の女子から人気がある。実は毒舌家。
「言ったほうがいいと思うけど・・・」
「多分無理ねー」
2年の双子の燎 綺羅・羅威(かがりび きら・らい)。しっかり者で活発なお姉さんの綺羅と優しくて身体の弱い弟の羅威。
「そういう奴は脅すに限るね」
3年の神埼 業(かんざき ごう)。優しい笑顔で女子に人気だが、かなり鬼畜で腹黒、自分の邪魔をする奴には容赦しない。
「怖いです・・・神崎先輩・・・」
2年の龍法寺 和奈(りゅうほうじ かずな)。両親が海外で仕事のため、現在は1人暮らし。
「むしろお尻ペンペンの方が!!」
1年の如月 紅(きさらぎ くれない)。柔道や合気道の有段者で、大会で優勝した事があるらしい。
「お手柔らかにね」
同じく1年の須賀 天梨(すが てんり)。陸上で期待されていたが、事故にあい運動を望めない身体になってしまった。
「精神的にきついな・・・それ・・・」
2年の雪野 俊(ゆきの しゅん)。可哀想なくらい何かに巻き込まれる、綺羅に好意を寄せている。
「まあ、返却が遅いのは問題だよなー」
貸し出しカウンターに座っているのは、3年の九龍 レイ(きりゅう れい) 彼もまた柔道や合気道の有段者で、この地区で彼に敵う者はほとんどいない。
「それが自分の読みたい本だとよけいイラつくしよ」
同じく3年の姫神 浬(きがみ かいり)。いつも耳にカフスをつけているが、それなりの成績なので教師も口が出せない。
「早いトコ返却カード渡したほうがいいな」
3年の樹 白夜(いつき びゃくや) 。元サッカー部のエースだが、新しくやってきた監督と馬が合わず自主退部。彼が抜けてしまったため、サッカー部は危ないらしい。
ご覧の通り、図書室には一癖も二癖もある生徒ばかり集まる。
それは、奥の広々とした席にいる人物がいるからだ。
図書室の出入り口から一番遠い席は一番日当たりが良い。いつもそこに座って読書をしている3年生がいる。
流れるロングヘアー、整った顔、静謐で深い蒼の瞳。
クールで知的で運動神経抜群、身長もそこそこあり、男子の制服を綺麗に着こなしている。
どこからどう見ても完璧な男子生徒―――にしか見えない女子生徒、天野 香澄(あまの かすみ)、である。
図書司書の先生はともかく、この場にいる生徒は全員香澄の事が好きだ。
それは友達として好きだとか、先輩として好きだとか、異性として好きだとか。

『好き』はひとそれぞれだ。

「香澄はどう思う?」
夏樹の呼ばれ、読んでいた本から目を離した。
「何が?」
「何がって、いつまでも本を返却しない生徒よ」
「ああ」
本を持ったまま、香澄は夏樹達がいるカウンターにやってきた。
「俺だったら持ってくるまで毎日取り立てに行くね」
いうと、業はおー怖、と軽く笑いながら肩をすくめた。
業の考えのほうが怖いと思う、綺羅達1・2年は思った。
「取立ては良いと思うけどよー、誰が行くんだ?」
と白夜。彼の意見は尤もだ。友達ならともかく、知らない人間の所に毎日行きたくないだろう。
「業だろ?」
香澄は夏樹に頼み、貸し出して続きをしている。外国語の本で、高校生が見るにはかなり大変なシロモノだ。
「ああ。神埼なら嫌でも持ってくるわね」
意地悪そうな笑みを軽く浮かべて夏樹が言う。
「ヒドイなー鷹野さん」
俺悲しー。業は泣き真似をして香澄のすがりついた。
「業、重い」
香澄はそんな業を軽くあしらう。
「香澄まで俺のこと見捨てるの?」
「あー悪かった悪かった」
ポンポンと業の頭を軽く撫でる。
それは飼い主に褒めてもらっている犬のようだ。

「神埼先輩、天野先輩から離れてください!」

「やだよー」

紅の言葉に、後ろから香澄に抱き付いている業が笑顔で答える。
「てかそれセクハラだろ!!」
「香澄、そいつから離れろよ!!」
「そうだ!!」
「この変態!!」
上から、レイ・白夜・浬・夏樹。天梨は紅を押さえているし、2年生達はオロオロと成り行きを見守っている。雪穂は苦笑しながらその様子を見守っていた。
「香澄、あんたも何とか言ったらどう!?」
夏樹に指摘され、少々考え込んだ。
そして。


「減るもんじゃないし、良いんじゃない?」


『オイッッ!!!』


流石にこの台詞には、全員が裏手ツッコミを入れた。
まあ業のスキンシップはいつもの事だ。
肩に手を置く、背中をさする、手を握る、腰に手を回す(え?)、廊下や教室で平気で抱きつく・・・など。
業のスキンシップが過剰な事に、香澄は何の疑問も抱いていない。
上に二人いる香澄はともかく、業は一人っ子で、結構甘えん坊だと香澄は思い込んでいる。
香澄も小学生の頃は上の二人に抱きついたりしていたし。
何を隠そう、香澄と業は幼馴染で幼稚園・小・中・高とずっと一緒なのだ。
互いの家が目の前なので、小学校低学年まで一緒に遊んだりお昼寝したりお風呂に入る事もあった。
そんなわけで、香澄は業に対して何の警戒心も抱いていない。

「そろそろ時間だし、帰るか」
「そーだねー」
業はさり気なく香澄の肩を抱いた。
その手をガシッ!と掴むいくつかの腕。

「何だよ」
「離れなさいよ!」

業の腕を掴んだ者達の代表として、夏樹が業と対峙する。

「神埼、いくらアンタが香澄と幼馴染だからって、やってるのはセクハラよ!
 いつまでも香澄にベタベタしてないで、さっさと恋人作ったらどうなの!?」

「その台詞、そっくり鷹野さんに返すよ。香澄にベタベタできるのは幼馴染の特権てやつだよ。
 それに恋人を作るのは鷹野さんの方じゃない?君こそいつまでも香澄を無理矢理連れまわすのはやめたら?」

「連れ回してるのはあんたでしょ!香澄は口に出してないけど迷惑してるのよ!!」

「迷惑してるのは君じゃないの?」

「何よ」

「何だよ」

バチバチと火花が散っている。
業と夏樹は事あるごとに香澄をめぐり、対立している。
業は香澄と幼馴染、夏樹は女子で一番仲が良い。
腹黒人間と毒舌家。勝負の行方はいかに!?


「まあ、香澄に決めてもらいましょうか」
「そうだね」
二人は同時に香澄のほうを向いた、が。


『・・・アレ・・・?』


争いの原因になった香澄の姿はどこにもなかった。
「先輩!?」
「いつの間にいなくなったんだ」
オロオロしている面々を見て、俊が

「先輩たちが争っている間にて帰りましたよ」

と一言。
『はっ!!??』

窓から見れば、正門へ歩いている香澄の姿があった。
少々の沈黙。


そして。

『待てー(待って下さーい)!!』

我先にと一斉に図書室を出た。
後に残ったのは、雪穂と俊の二人だけ。
「・・・相変わらずですね、天野先輩は」
「まあ、それが天野さんていう人間なのかもね」

END


メインである香澄と愉快な仲間達の簡単な説明のようなものです。
我ながらアホだなーと思います。
オリジナルはこいつらを中心に話を展開していく予定です。
おそまつさまでしたー。