放課後、人気のあまりない図書室。

図書室の一番奥の机は、天野先輩の指定席。
その席で先輩は何かを作っている。
「先輩、何作ってるんですか?」
「見ての通りのものだ」
かなり集中しているみたい、先輩は私の方を見ないで答えた。
机上に広げられたルーズリーフの上にキラキラと輝いているビーズ、その横に広げられた説明書に先の細いペンチ。
先輩はビーズのキットで何かを作っているみたい。
「楽しいですか?」
「ああ」
私は先輩の正面の席に座って、製作過程を見ていた。
先輩はそんな私の視線なんか気にしない。
男の人みたいでドキッとするけど、天野先輩は女の人。
私と比べると先輩の手は大きい。長くて、しかも綺麗な手。
伏せ目がちな深い蒼の瞳に、長いまつげ。

何か悔しいな。

じーっと見てても、先輩はそんなの気にしないんだもん。

小さくて、床に落としたら消えてしまいそうなビーズは、先輩の手によって生命を吹き込まれていく。
黄色い大きめのビーズに、透明な外装に包まれた緑色のビーズ、そして小さな小さな白いビーズ
緑のビーズに囲まれた黄色いビーズ、それにくっつく白いビーズ。
ツー、シュルーとビーズがテグスに通され、丸められたり、別の所にそのテグスが通される。
形を整え、キュッと縛られ、花の形になった。
次は、銀色のテグスを花びらに通して、緑のビーズが通される。
短い×印が出来て、その上には長めの楕円形。
葉っぱの飾りをストラップパーツにつけて、
「出来た」

みたい。

出来たのは白い花の携帯ストラップ。
先輩がそれを振ると、光を浴びて、キラキラと光った。
「綺麗ですね」
すると、先輩はそれを私の前に差し出した。

「?」
「やる」
「いいんですか?」
「ああ」
先輩は道具を片付けていた。
手のひらに置かれたストラップは、光を受けてキラキラ輝いている。
私はしばらくそれを見ていた。
「自分で使わないんですか?」
「ああ。俺は製作過程が好きなだけだ」
うー、いかにも先輩らしい台詞・・・。
「それに」
それに?」
「ボケ防止になるし」
「何でボケ防止なんですか!?」
「手先を使う事によって脳を刺激して、ボケを防止するんだ」
「そんな知識知ってますよ!!何で!?」
「みんなからボケてるよな、って言われるから、もうボケ進行してみるもんだと」
「してませんよ!!」
多分それは、先輩が天然過ぎるからだと思う。それに鈍いし。
みんな(私を含めて)先輩のことが好き。
でも先輩は気づかない。
先輩はいつも真っ直ぐ自分の信じた道を走っているから。
周りの事を何てお構いなし。
それが先輩の長所であり短所でもあると私は思う。

「変わってますね」
「そうか?」
「そうですよ」
製作過程が好きなんて人は滅多にいない。
みんな出来上がったものが好きだから。
でも、先輩は反対で、製作過程が好き。
本当に
「変わってますね」
言うと、先輩は小さく笑った。


END


香澄と和奈の何気ない日常です。
実際にビーズでストラップ作りました。
卒業を機に、個人的にお世話になった先生方に差し上げるためです。