物は大切に? 携帯電話。 それは現代の生活になくてならないものだ。 公衆電話の姿を見かけなくなり、携帯で支払いや情報検索をするのが主流となりつつある。 新たな機種が販売され、その消費率はかなりのものだ。 携帯も年を追うごとに進化し、衰退しているのである。 「どうするかなー・・・」 現在使っている携帯の電池消費率が激しくなってきたのだ。 香澄が使っている物は高校入学時に購入したものであり、もうそろそろ買い替え時だ。 新機種が出てきた事で、ほとんどの携帯が新規にしろ継続にしろ安くなって、買い換える事が難しい事ではない。 しかし、香澄は携帯の色、彼女の瞳より明るい蒼―――コバルトブルーが気に入っている。 同じ色があればいいのだが、あいにく同じ色がない。 あったとしても、新機種で継続だと三万もする。 携帯ごときに金をかけるつもりはない。 と、いうのが香澄の考えなのだが・・・そうは言っていられそうにない。 蒼、青、ブルー、 『瞳が蒼だから』という単純な考えもあるのだが、 『あお』は香澄の好きな色であると同時に、彼女自身のイメージカラーでもある。 ハンカチはスカイブルーのチェックだし、バイクもメタリックブルー、筆箱も紺瑠璃で、日用品や筆記用具もほとんどが蒼なのだ(ちなみに、現在使っている待ち受けも写メで撮った空である)。 ここまで『あお』にこだわる人間も珍しいが。 「・・・帰るか・・・」 悩んでいても仕方がない。 それなりの人がいる図書室を出ようとした時、彼女の後輩'S(龍法寺和奈、燎綺羅&羅威)が走ってきた。 「先輩、もう帰るんですか?」 「ああ、ちょっと携帯を見にな」 学生達が利用する駅ビルには、携帯ではポピュラーな会社の展示場がある。 そこへよるつもりだ。 「私たちもいいですか?」 「構わん」 やった!と喜ぶ後輩'Sを尻目に、香澄は図書室から出た。 「3人はどんな携帯を使っているんだ?」 香澄が言うと、3人はそれぞれの携帯を見せた。 和奈はコーラルピンクで和音が高いもの。 綺羅はシルバーでカメラの画像がいいもの。 羅威はアイボリーグレーで文字が大きいもの。 それぞれの個性が見える。 「携帯買い換えるんですか?」 と和奈。 「先輩って物持ちいいですからね〜」 と綺羅。 「機種とか決めているんですか?」 と羅威。 この3人は香澄と同じ中学校の同じ部活だった。 仲良し3人組の尊敬する人は香澄であり、3人とも香澄を追って、同じ高校に入学したのだ。 香澄は部活に入っておらず、放課後は図書室で読書をしている。なので、図書室は3人をはじめ彼女を慕う人間が集う場所となっている。 それはさておき。 中学時代からの付き合いのある香澄達は時折こうして途中まで帰る事がある。 3人が慕ってくれるのを邪険する事無く、帰宅するのだ。 何やかんや話しながら歩いていると、駅に近づいてきた。 駅前にある商店街は今でもそれなりに活気が溢れており、買い物帰りの主婦や学校帰りの学生が忙しそうに歩いている。 「お腹すいてきましたね〜」 店から漂う、揚げたてのコロッケの匂いに、食欲がそそられる。 そういえば、昼に弁当を食べたきりだっけ。 「帰りに何か食うか」 時間が時間だから、あまりこってりしたものは食べられないが。 「そうですね!」 「タイヤキ食べた〜い」 「僕はたこ焼きのほうがいいな」 嬉しそうな返事が返ってきた。 「じゃあ、早く行きましょうよ!!」 綺羅が香澄の腕を引っ張った。 その時、 「誰かー!!」 後ろから声がした。 振り返ってみると、バイクにまたがった男が2人に、倒れている初老の女性が1人。 男の手には、シンプルなバッグがある。 「引ったくり!?」 止めようと試みる人がいるが、バイクに乗っているため、止める事が出来ない。 バイクは香澄立ちの脇を通り抜けた、刹那、 ゴッ! 「グエッ」 バーンッ! ガッシャンッ! 突然の出来事に、唖然とする人々。 ゴッ!←男の背中に何かが当たった音。 「グエッ」←男の声。 バーンッ!←男達が地面にぶつかった音。 ガッシャンッ!←何かが壊れた音。 香澄は無言で男たちに歩み寄り、ハンドバッグを持っていた男の胸倉を掴み、運転していた男の背中に足をおき、逃げられないようにした。 「この阿呆共が」 夕日を浴びるその姿は、悪鬼を狩る武士のようだと、ある人は語った。 「あの、先輩・・・」 羅威が恐る恐る香澄に声をかける。 香澄は答えず、何だ?という視線を羅威に送った。 「それ、先輩の携帯じゃないですか?」 地面の上で大破している、コバルトブルーとシルバーの破片―――携帯電話の残骸があった。 「・・・」 何となく恐ろしくなったので、3人は急いでその場から離れた。 「俺の携帯がーっっ!!!」 気づかなかったんですか!!?? この3人は忘れていた。 この天野香澄という人物が、天然を通り越した大ボケ人間である事を。 「貴様、俺の携帯に何をするんだ!!」 香澄は物凄い形相―――某ファンタジー小説の魔王も殺せそうなほどの勢いで、胸倉を掴んでいた男を、思い切り揺さぶった。いわゆる、八つ当たりというものだ。 揺さぶられた男は、不自然なくらいガクガクと揺れている。そう、男は香澄が投げた携帯電話によって、気絶しているのだ。 あまりの恐ろしさに、駆けつけた警察官達も、迂闊に手を出せなかった。 後に分かった事だが、香澄が携帯を投げつけた二人組みは、バイクを使ったスリの常習犯で、その被害額は100万近くにのぼるものだという。 携帯が当たった男の背骨はヒビが入り、当たり所が悪ければ神経が傷つき、半身不随になっていたと医者は言っていたらしい。 今回の事件で犠牲者となった二人は、裁判でも起こしそうだったが、香澄が恐ろしく、訴えられなかった。 そして。 「あ、新しい携帯ですね」 「ああ。最新の奴だ」 この働きによって礼金を貰った香澄は、そのお金を携帯電話に使った。 現在、香澄の手元には、コバルトブルーの最新の携帯電話がある。 END |
私が携帯を買ったことを記念して思いついたものです。 携帯は1年を過ぎると、電池の消耗が激しくなってしまいます。 これも携帯業界の戦略なんでしょうかねー。 |