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それは、ある日の放課後の事。
私立矢次高校3年生の
五島 夜羽子(ごとう ようこ)は、クラスメートの外河 薫(とがわ かおる)猫目 真咲(ねこめ まさき)と共に駅ビルにて買い物をしていた。

「薫、いい加減真咲に選んでもらうのはやめたらどうだ」
呆れたように夜羽子が言う。
「別にいいじゃん」
ねえ?薫は真咲に同意を求めた。
薫と真咲は恋人同士なのだ。
外河薫は、漆黒の髪に白い肌という外見こそ女性に見えるが、れっきとした男である。
しかし、男にしては幾分ほっそりしていて、女物の服が着られる(男物では大きすぎるため)。
二人は買い物に出かけては同じ服を買い、着ているのだ。
「辰神さんに逢えないからって、当たるのはやめてよ」
「!!!」
茹蛸のように夜羽子は顔を紅くした。
辰神さん、こと、辰神 飛鳥(たつがみ あすか)は3つ年上の夜羽子の恋人である。
彼の職業が大学生という事もあって、課題やら何やらで中々逢えないのだ。
尤も、毎日メールのやり取りをしているのだが・・・。
それはともかく。
恋人二人に文句を言うのを諦めた夜羽子は、少し離れて二人の様子を見ていた。
その時。


「よーこさん?」


という声が聞こえた。
振り返ってみると、深蒼の双眸を携えた友人がいた。


「―――香澄?」


香澄の深い蒼い双眸と夜羽子の炎のような紅い双眸が交わる。
それを確認した香澄は、嬉しそうに微笑みながら夜羽子の方へ歩いてきた。
「よーこさんも、今帰り?」
「そうだ。あいつらにつき合わされているがな」
いまだ買い物に没頭している薫と真咲に、夜羽子の視線が行く。
その様子を見た香澄は苦笑した。
香澄も薫と真咲とは友達で、二人の関係も知っている。
「大変だね」
当てられた?
言うと。
「そんな事あってたまるか」
不機嫌そうに答える。
しかし、不機嫌そうなのは表面だけで、内心それほどでもない。どちらかというと、呆れている方が多い。
二人はしばらく話していると、
「ごめん、終わったよ」
買い物を終えた薫と真咲がやってきた。
「あ、香澄さん」
「こんにちは、薫くん、真咲さん」
「香澄さん、今、暇?暇だったら一緒に軽く食べない?」
言われ、答えようとした時、

「香澄ー」

「せんぱーい!」

と、香澄を呼ぶ声が次々に聞こえた。
見れば、業達が走ってくる。
「香澄、その人は?」
仲良良さ気に話す夜羽子達に、夏樹が怪訝な顔をする。
見れば、夏樹以外の面子も不機嫌そうな顔をしている、が、香澄はまったく気づかない。
そして。
「自己紹介も兼ねて、皆で軽く食べよう」
と、香澄は提案した。




 * * *




駅ビルにある、某大手ファーストフード店に、香澄達はいた。
香澄と夜羽子達3人と業達12人、計16人という大人数のため、店内の一角をうめた。
各自頼んだ飲食物をぱくつきながら、自己紹介をする。
自己紹介といっても、この面子を全員知っているのは香澄だけな分けで・・・。
「矢次高校の友達で、紅い瞳が五島夜羽子さん。薄茶が猫目真咲さん、鳶色が外河薫くん」
「で、こっちが、幼馴染の神埼業。同じ高校の鷹野夏樹さん、九龍レイ、樹白夜、姫神浬。
後輩の龍法寺和奈、燎綺羅・羅威姉弟、雪野俊、如月紅、須賀天梨」
各自口々によろしくー、よろしくお願いします、と言う。
普段、あまり関わりのない他校生同士。
仲良くなればいいな、と香澄はのんきに考えていた。

「香澄、何で今日に限ってこんなに大人数でいたんだ?」

ハンバーガーを齧りながら、夜羽子はウーロン茶を飲んでいる香澄に問いかける。
「授業が午前中で終わったから、こっちに買い物に来ようと思ったんだ。そしたら、みんな行くって」
大方香澄と一緒にデートしたかったんだろう。
夜羽子は内心苦笑する、と同時に、面白くない、という感情が、彼女の心を占めた。
「香澄ー、五島さんとばっか喋ってずるいー」
ベターっと業が香澄に抱きついてくる。
あまつさえ、香澄の飲んでいたウーロン茶を奪うように飲む。
カップにはまだ彼の頼んだコーラが残っていた。
「仕方ないだろう?よーこさんとは仲間だし、あんまり喋れないんだからさ」
「でもー」
まだ何か言いたい事があるのか、業は夜羽子と視線を交わす。
日本人標準の黒と、燃える様な紅の視線がぶつかる。
瞬間、業は夜羽子に見せ付けるかのように、思い切り香澄を抱きしめた。
それを見た夜羽子は、無言で席を外し、香澄と業を離した。

「っと、よーこさん?」

「香澄、あんたはこっちに座りな」
先刻まで彼女が座っていた席を指差す。
「な、何で・・・?」
「いいから」
「う、うん・・・」
いつもと違う友人の迫力に戸惑いつつも、香澄はその指示に従う。

(ようこさんてば、分かりやすいよね)
(うん。神埼くんだっけ?彼もすごいし・・・)

薫と真咲はヒソヒソ話をする。
一方、遠誠高校側も・・・

(あーあ、何で神埼はあそこまでするかなー?)
(俺、一度でいいから香澄を抱きしめて見たいぜ)
(あー、それは同感。香澄ってほっそりしているから)
(肉あんまりないもんな)
(セクハラですよ!!)
(五島さんだっけ?あの人も凄いよね)
(うん。神埼先輩と互角にやれるなんて)
(天野さんは、まったく気づいてないし)
(羨ましいな〜)
(やりたいけど、怖くて入っていけないもんね)


・・・微妙に問題発言も入ってる気が・・・。


「「・・・」」

無言のにらみ合いが続く。
その気配を悟った面々は、それぞれ体制をとった。
薫は香澄の耳を塞ぎ、真咲は目を塞いだ。
「かおるくん?まさきさん?」
「黙って」
「う、うん・・・」
そして。

「幼馴染だからって、貴方がやっている事はセクハラだ」
「幼馴染の特権てやつだよ?」
「幼馴染だから何してもOKって事はない。それに、幼馴染で知らない事はあるんだろ?」
「何が?」
「香澄は毎年長期休みになるといなくなる理由を知っているか?」
「君は知っているの?」
「当たり前だ。私と香澄は寝食を共にしているのだからな」
「へー。それで、どこでやってるの?」
「貴様に教える義理は無い」
「いいよ。香澄に聞くから」
「それはムリだな」
「何で?」
「香澄は恥ずかしがって他人には教えたがらないんだ」
「それとこれとは関係ないよ」
「大有りだ」
「・・・」
「・・・」

ふと、業は香澄の台詞に思い出し、違和感を感じた。



『よーこさんとは仲間だし』



楽しいはずの食事会が、一瞬にして修羅場と化した。
夏樹達3年生は呆れ、和奈達、1・2年生は脅え、薫と真咲は苦笑し、修羅場の原因となった蒼眼の学生は、 目と耳を塞がれ何が起こったのか把握しきれていない。
夏樹達はともかく、その場に居合わせた客達は好奇の瞳で、その修羅場を見ていた。
「・・・今日のところはこのくらいしてやる」
「それはこっちの台詞だよ」
さすがに好奇の視線に嫌になったのか、二人の争いはここで終わった。
それを見た薫と真咲は香澄の目と耳を覆っていた手を離した。
「あのさ、かおるくん」
「何?」
「何があったの?」
「・・・知らない方がいいよ」
「でも・・・」
何か言いたげな香澄。
すかさず真咲が
「ところでさ、香澄さんの学校のテストっていつ?」
慌てて話題を変えた。
「後一週間後だけど」
「こっちと同じくらいなんだ」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、また機会があったらこんな風に食事したいね」
香澄のマイペースな発言に、



それは無理だろ。



と、全員でツッコミを入れた。

END


香澄と他校の方々のお話です。
香澄←夜羽子VS業
って感じですね・・・