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それは、ある日の放課後の事。 私立矢次高校3年生の 五島 夜羽子は、クラスメートの外河 薫 「薫、いい加減真咲に選んでもらうのはやめたらどうだ」 呆れたように夜羽子が言う。 「別にいいじゃん」 ねえ?薫は真咲に同意を求めた。 薫と真咲は恋人同士なのだ。 外河薫は、漆黒の髪に白い肌という外見こそ女性に見えるが、れっきとした男である。 しかし、男にしては幾分ほっそりしていて、女物の服が着られる(男物では大きすぎるため)。 二人は買い物に出かけては同じ服を買い、着ているのだ。 「辰神さんに逢えないからって、当たるのはやめてよ」 「!!!」 茹蛸のように夜羽子は顔を紅くした。 辰神さん、こと、辰神 飛鳥 彼の職業が大学生という事もあって、課題やら何やらで中々逢えないのだ。 尤も、毎日メールのやり取りをしているのだが・・・。 それはともかく。 恋人二人に文句を言うのを諦めた夜羽子は、少し離れて二人の様子を見ていた。 その時。 「よーこさん?」 という声が聞こえた。 振り返ってみると、深蒼の双眸を携えた友人がいた。 「―――香澄?」 香澄の深い蒼い双眸と夜羽子の炎のような紅い双眸が交わる。 それを確認した香澄は、嬉しそうに微笑みながら夜羽子の方へ歩いてきた。 「よーこさんも、今帰り?」 「そうだ。あいつらにつき合わされているがな」 いまだ買い物に没頭している薫と真咲に、夜羽子の視線が行く。 その様子を見た香澄は苦笑した。 香澄も薫と真咲とは友達で、二人の関係も知っている。 「大変だね」 当てられた? 言うと。 「そんな事あってたまるか」 不機嫌そうに答える。 しかし、不機嫌そうなのは表面だけで、内心それほどでもない。どちらかというと、呆れている方が多い。 二人はしばらく話していると、 「ごめん、終わったよ」 買い物を終えた薫と真咲がやってきた。 「あ、香澄さん」 「こんにちは、薫くん、真咲さん」 「香澄さん、今、暇?暇だったら一緒に軽く食べない?」 言われ、答えようとした時、 「香澄ー」 「せんぱーい!」 と、香澄を呼ぶ声が次々に聞こえた。 見れば、業達が走ってくる。 「香澄、その人は?」 仲良良さ気に話す夜羽子達に、夏樹が怪訝な顔をする。 見れば、夏樹以外の面子も不機嫌そうな顔をしている、が、香澄はまったく気づかない。 そして。 「自己紹介も兼ねて、皆で軽く食べよう」 と、香澄は提案した。 * * * 駅ビルにある、某大手ファーストフード店に、香澄達はいた。 香澄と夜羽子達3人と業達12人、計16人という大人数のため、店内の一角をうめた。 各自頼んだ飲食物をぱくつきながら、自己紹介をする。 自己紹介といっても、この面子を全員知っているのは香澄だけな分けで・・・。 「矢次高校の友達で、紅い瞳が五島夜羽子さん。薄茶が猫目真咲さん、鳶色が外河薫くん」 「で、こっちが、幼馴染の神埼業。同じ高校の鷹野夏樹さん、九龍レイ、樹白夜、姫神浬。 後輩の龍法寺和奈、燎綺羅・羅威姉弟、雪野俊、如月紅、須賀天梨」 各自口々によろしくー、よろしくお願いします、と言う。 普段、あまり関わりのない他校生同士。 仲良くなればいいな、と香澄はのんきに考えていた。 「香澄、何で今日に限ってこんなに大人数でいたんだ?」 ハンバーガーを齧りながら、夜羽子はウーロン茶を飲んでいる香澄に問いかける。 「授業が午前中で終わったから、こっちに買い物に来ようと思ったんだ。そしたら、みんな行くって」 大方香澄と一緒にデートしたかったんだろう。 夜羽子は内心苦笑する、と同時に、面白くない、という感情が、彼女の心を占めた。 「香澄ー、五島さんとばっか喋ってずるいー」 ベターっと業が香澄に抱きついてくる。 あまつさえ、香澄の飲んでいたウーロン茶を奪うように飲む。 カップにはまだ彼の頼んだコーラが残っていた。 「仕方ないだろう?よーこさんとは仲間だし、あんまり喋れないんだからさ」 「でもー」 まだ何か言いたい事があるのか、業は夜羽子と視線を交わす。 日本人標準の黒と、燃える様な紅の視線がぶつかる。 瞬間、業は夜羽子に見せ付けるかのように、思い切り香澄を抱きしめた。 それを見た夜羽子は、無言で席を外し、香澄と業を離した。 「っと、よーこさん?」 「香澄、あんたはこっちに座りな」 先刻まで彼女が座っていた席を指差す。 「な、何で・・・?」 「いいから」 「う、うん・・・」 いつもと違う友人の迫力に戸惑いつつも、香澄はその指示に従う。 (ようこさんてば、分かりやすいよね) (うん。神埼くんだっけ?彼もすごいし・・・) 薫と真咲はヒソヒソ話をする。 一方、遠誠高校側も・・・ (あーあ、何で神埼はあそこまでするかなー?) (俺、一度でいいから香澄を抱きしめて見たいぜ) (あー、それは同感。香澄ってほっそりしているから) (肉あんまりないもんな) (セクハラですよ!!) (五島さんだっけ?あの人も凄いよね) (うん。神埼先輩と互角にやれるなんて) (天野さんは、まったく気づいてないし) (羨ましいな〜) (やりたいけど、怖くて入っていけないもんね) ・・・微妙に問題発言も入ってる気が・・・。 「「・・・」」 無言のにらみ合いが続く。 その気配を悟った面々は、それぞれ体制をとった。 薫は香澄の耳を塞ぎ、真咲は目を塞いだ。 「かおるくん?まさきさん?」 「黙って」 「う、うん・・・」 そして。 「幼馴染だからって、貴方がやっている事はセクハラだ」 「幼馴染の特権てやつだよ?」 「幼馴染だから何してもOKって事はない。それに、幼馴染で知らない事はあるんだろ?」 「何が?」 「香澄は毎年長期休みになるといなくなる理由を知っているか?」 「君は知っているの?」 「当たり前だ。私と香澄は寝食を共にしているのだからな」 「へー。それで、どこでやってるの?」 「貴様に教える義理は無い」 「いいよ。香澄に聞くから」 「それはムリだな」 「何で?」 「香澄は恥ずかしがって他人には教えたがらないんだ」 「それとこれとは関係ないよ」 「大有りだ」 「・・・」 「・・・」 ふと、業は香澄の台詞に思い出し、違和感を感じた。 『よーこさんとは仲間だし』 楽しいはずの食事会が、一瞬にして修羅場と化した。 夏樹達3年生は呆れ、和奈達、1・2年生は脅え、薫と真咲は苦笑し、修羅場の原因となった蒼眼の学生は、 目と耳を塞がれ何が起こったのか把握しきれていない。 夏樹達はともかく、その場に居合わせた客達は好奇の瞳で、その修羅場を見ていた。 「・・・今日のところはこのくらいしてやる」 「それはこっちの台詞だよ」 さすがに好奇の視線に嫌になったのか、二人の争いはここで終わった。 それを見た薫と真咲は香澄の目と耳を覆っていた手を離した。 「あのさ、かおるくん」 「何?」 「何があったの?」 「・・・知らない方がいいよ」 「でも・・・」 何か言いたげな香澄。 すかさず真咲が 「ところでさ、香澄さんの学校のテストっていつ?」 慌てて話題を変えた。 「後一週間後だけど」 「こっちと同じくらいなんだ」 「そう?」 「うん」 「じゃあ、また機会があったらこんな風に食事したいね」 香澄のマイペースな発言に、 それは無理だろ。 と、全員でツッコミを入れた。 |
END |
香澄と他校の方々のお話です。
香澄←夜羽子VS業って感じですね・・・