どこまでも続く蒼

今も、昔も、これからも、決して変わる事の無いもの

ずっと・・・

ずっと・・・





空の記憶






 俺の眼前に広がるのは、どこまでも続く蒼と、その青に映える雲の白。


「綺麗だな――・・・」


 自宅の居間に寝転んで、開けられた窓を見上げれば、そこに空がある。

 いつだってそうだ。



 俺の傍にはいつも空がある。



 俺の住む天馬町は田舎である。故に、高い建造物や、星の変わりになるネオン街などほとんどなく、あるものは、自然。

 生まれも育ちも田舎の所為か、都会に憧れた事は無い。

 そりゃあ、たまに遊びに行く程度なら良いけど、実際住むとなったら話が別だ。


 物価は高いし、危ないし、土地は狭いし、建物ばっかりで空が狭いし・・・。



 思えば、俺は何時も空を見ていた。



 授業中や登下校時、暇さえあればいつも空を見ていた、否、見ている。



 晴天、雨上がり、入道雲、夜明け、夕暮れ・・・。



 空は、同じ表情を見せない。


  だから、好きだ。



  ふと、思う。

 俺は、何で、こんなにも空の事を考えているんだ?


 空は常に俺の傍にある。


 それは当たり前の事じゃないのか?



「・・・分からん・・・」






 一番古い記憶は、母親の胎内でも、生まれた瞬間でもない。



 脳裏にずっとある物は、空。


 どこまでも続く、蒼い空だ。

 母曰く『どんなにくずっていても、空を見せると大人しくなったのよ』


 過去の自分に突っ込んでみたい。




 お前どんな赤ん坊だったんだよ。



 ある意味サイレンとベビーより怖いじゃないか。





  以前、中学校の屋上に上って、フェンスを越えた。
 此処からよく空が見えたから。
 そしたら、何故か大騒ぎになった。
  後に幼馴染の業に聞いたら、フェンスを越えて突っ立っている光景は、『自殺者』そのものだった・・・らしい。




  失礼な話だ。




 自殺なんて、よほど人生に挫折したか、絶望したか、或いは、地上と言う感覚から離れたい人間がすることだ。

 人間は、否、人間に限らず全ての生物は、この世界に生まれた意味があるはず。
 その意味も見出せないで、地に還るなんて・・・。

 じゃあ、空だったら?

 空に還ったら、どうなるんだろう、と常々思う。


 『地』か『空』か。


 どちらを選んだって『死』には変わりない。

 
 俺は厭だ。

 『天野香澄』という人間の一生は、今しかおくれないもの。


 簡単に、終わらせる事は出来ない。



 それでも。



 それでも。



  俺は空に憧れる。





 ずっと、昔。
 ある人に言われた。

『香澄は空みたいな子だね』

『空みたいな・・・?』

『ああ、かすみの澄っていうのは、澄んだ空。どこまでもつづくまっさらな空だからね』

『空』

『そう、空だよ』


『空・・・』




ずっと

空があった。    

  その事実は、

      決して変わらない。


そして、    

その記憶は、       

  俺の中で、

生き続ける。




END