49 ミルクとコーヒー



「アマゾン、ソレ、嫌い」

アマゾンこと、山本大介は、が持っているものを指差した。
「これが、か?」
これ、と見せたのは、何の変哲も無いコーヒーだ。



アマゾンのお守りを頼まれ、は彼とともに街をぶらついていた。
街に行く機会の少ないアマゾンは、嬉しそうにを引っ張って、色んな店を見て周り楽しんでいた。
そして昼を少し過ぎた頃、空腹を訴えたられた。二人のいる場所はショッピングモールであるため、レストランだろうがファーストフードだろうが、食べるところに不自由しない。
どこがいい?とアマゾンに問えば、ココ!と指差した場所――有名なハンバーガーのチェーン店で、遅い昼食をとることになった。

は最もポピュラーなハンバーガー、アマゾンは一番ボリュームのあるハンバーガーの、それぞれポテトとコーヒー、ミルクのセットを頼み、混雑しているものの、昼時のようなものではなかったため、店内で食べる事になった。
席に着くなり、アマゾンは大きく口を開けてハンバーガーを頬張った。
「旨いか?」
そう問えば。
「ウマイ!」
という答えが返ってくる。
ファーストフードを食べる器械が少ないのか、アマゾンは嬉しそうにハンバーガーを食べた。
はその様子を見ながら自分の分のハンバーガを口に運ぶ。
「足リル?」
そんなをアマゾンはじっと見つめていた。
成人男性である自分の食べる量は、アマゾンと比べて少ないのだろう。アマゾンは心配そうにの顔を覗きこんでくる。
「心配するな、夕食までは持つ」
のいう事は本当だった。
燃費がいいのか、はハンバーガーセットだけで、夕食までもってしまうのだ。アメリカ――FBIに勤務している時は、滝やアンリに、アマゾンと同じように心配されたものだ。
アマゾンは納得したのか、食べる事に専念した。
先に食べ終えたは、そんなアマゾンを父親のような視線で見守った。




あらかた食べ終えると、ゆったりとした食後のティータイムのようになった。のコーヒーはお変わり自由であるため、彼は遠慮する事無く2杯目を頼んだ。
ソレを見て、アマゾンが冒頭のような発言をしたのだ。

「コーヒー、苦イ、オイシクナイ」
どうやらアマゾンの中では、コーヒー=苦くておいしくない、という方程式が出来ているようだ。
人間は本能的に、苦いものを『毒』と認識する。その名の通り、アマゾンで育った彼はコーヒーを飲む機会がなく、こちらに来て初めて飲んだのだろう。
それが、ブラックで、苦くて不味い、とアマゾンは認識した事は、容易に想像できる。
「苦いといってもな・・・こういうものは、半分慣れだぞ?」
「ヤダ!苦イ、オイシクナイ!」
困った、とは思った。
そこでは、あるものに気づいた。
「ミルクをちょっと貰うぞ」
アマゾンに断りを入れたは、残っていたミルクを持っていたコーヒーの中に注ぎ、プラスティックのティー・スプーンでかき混ぜ、仕上げに砂糖を少々。出来たものは、薄い茶色の飲み物だ。
「コレハ?」
「カフェオレだ。苦くないから、飲んでみなさい」
言われて、アマゾンは大人しくカップを受け取り、鼻を近づけて匂いをかいだ。
平気だと認識したのか、アマゾンは一気にカフェオレを飲んだ。

「・・・」

「・・・アマゾン、平気か?」

動かなくなったアマゾンに、は声をかける。

「・・・旨イ」

その言葉を聞いて、とりあえずはほっとした。
これを機会に、他のものも食べられたり、飲めたりすればいい、とは思ったのだった。



END