1.簡単だから難しい


『好き』

この言葉は簡単に口に出せる。
例えば、犬が好きだとか、コーヒーが好きだとか。つまり、日常的に使われる言葉だ。

『愛してる』

この言葉は簡単に口に出せない。
誰かを想ったりする時に。口にする言葉だ。

スキンシップが激しい(?)アメリカでは、誰でも簡単に口に出せる。
俺はこの言葉を使わない所為か、恥ずかしくて口に出せない(出したら出したで、違和感がある)。

だが、目の前で悠々とコーヒーを飲んでいる奴―――本郷は、平気で口にする。

『滝、愛してるぞ』

云われる度に、どうしてもそれを突っぱねる事が多い。
本当は、本郷に言われて嬉しいはずなんだが・・・。

「どうかしたのか、滝」

「何でもねーよ」

ヘタにそんな感情を、こいつの前で露わにすると、図に乗る。

だから、云ってやらない。

『好き』という言葉は、簡単に口に出せるが、『愛してる』という言葉は口に出さない。

簡単に口に出来るからこそ、軽々しく口にするもんじゃない。


  END