『必ず帰る』

どんな事がおきても、きっと・・・。



  29. 約束された勝利



パンドラの箱を開けてしまった米国は、自国の軍隊と同盟国の軍を箱の中へいれた。
今なお災厄の燻る大地へ赴く者達は、愛する者へ別れを告げた。

『必ず帰ってくる』

そう言って、しかし、その約束を守れた者は、どれだけの人数だったのか。



「『約束された勝利』ってあると思うか?」

新聞を見ながら呟いたのは、本郷だった。
滝は一瞬、何を言われたのか、理解できなかった。

約束された勝利?

「唐突だな」
本郷の呼んでいる新聞には、イラクに派遣された軍隊の状況などが書かれており、彼は真剣にそれを見ていた。
「それは、イラク派遣だろう?」
「そうだ」
「それと『約束された勝利』は、何か関係があるのか?」
「ああ。あるさ」
本郷は新聞をたたんだ。
「イラクへ軍隊を派遣するのは復興支援であって、戦闘が目的じゃないのは、誰でも分かると思うんだ」
「そうだな」
「しかし、実際、支援活動をしているのは日本の自衛隊等で、アメリカの軍隊は、テロリストの抑制がメインとなっている」
「ああ」

「―――テロに巻き込まれて、どのくらいの人が帰ってこれなかったのか、と思ったんだ」

それは、つまり。

「生きて帰ってくることが前提であったはずなのに、生きて帰ってこれなかったって事、だな」

本郷は何も言わず微笑んだ。
フセイン元大統領が見つかり、戦争が終わったかに見えた。
確かに戦争は終わった。けれど、戦争が残した傷は余りにも大きなものだった。
結局、この戦争における『約束された勝利』など無かったのだ。
「守れないなら、はじめからするなってんだ」
「―――滝はどうなんだ?」
「何がだよ」
「滝は帰ってくると、約束してくれるか?」
滝は唖然とした表情で本郷を見た後、いつものように人懐っこい笑顔を浮かべた。
「当たり前だろう。本郷、お前も約束しろよ」
「ああ」

―――必ず、お前のもとに返ろう。

約束の意味も込めて、本郷はゆっくりと、滝に口付けた。


   END
 




後書き。
 本郷さんも滝さんも必ず約束を守る人だと思います。
 パンドラの箱=開けてはいけないもの=災厄=イラク(?)
2006/5/30