40.散歩道


『ちょっと先のスーパーで安売りしてるから、買い物よろしく』

本郷邸の家事全般を担当している神敬介に頼まれ、筑波洋と沖一也は買い物に出かけた。
その際。

『あのスーパーはちょっと大変だから、気をつけるように』

といわれた。子どもじゃあるまいし何に気をつけろというのか、などと軽く考えていた二人だったが、数分後、その考えを撤回する事となった。


「・・・これ、どうなってるんだ?」
「さあ?」

二人の目にうつっているものは、安売りに殺到する主婦の群れ。
箱や棚に無数に張られている紙には『タイムサービス!豆腐2丁50円』や『300円で肉詰め放題!』と書かれている。どうやら、家計預かる主婦の方々は、これが目的らしい。
「沖・・・俺、ここに入りたくないよ・・・」
「俺もだよ、筑波・・・」
目の前で繰り広げられている、主婦たちの争奪戦(?)に二人は圧倒されていた。
これがタイムサービスなどやっていない店なら、二人は入りやすかっただろう。時間帯と二人の風体は、大学帰りの学生であり、自炊するために買い物をしていてもおかしくない。
しかし、主婦ばかりで、おまけに殺伐としている店内に、大の男二人がいたら浮いた存在である事は間違いない。
「敬介さんが言ってたのって、こういう事だったのかな?」
「多分な」
二人は盛大にため息を吐いた。
出来ればこの店に入りたくないが、敬介はきっちり店まで指定していた。だから、この店に入らなければならない。
「―――行くか?」
「おう」
二人は覚悟を決めて、主婦の殺到する店内へ足を踏み入れた。


 * * *


―――数分後、何とか指定された品物を買い終えた二人は、戦利品を手に家路を歩いていた。
「何かさ、BADANとかの戦いの方が楽だった気がしたんだけど・・・」
「そうだな・・・」
沖の言葉に、筑波が頷く。
家計を預かる主婦の気合は凄まじく、下手したら秘密結社の雑魚戦闘員より強いんじゃないか、と思えて仕方が無い。
「俺さー、死んだ爺ちゃんが見えたよ」
あはは〜、と笑う筑波に、沖は

(それって、やばいんじゃ・・・)

と、心の中で突っ込みを入れた。まあ、自分も似たような心境だったのだが。
そんな風に歩きながら、家路へ向かう二人だったが、筑波が空いている方の手で沖の服の袖を引っ張る。
「どうした?」
「いやさ、たまには違う道通ってみたいなって思って」
「行くのか?」
「もちろん。手始めに、あの小道を行こう」
こうなると、筑波の暴走(?)を止める事など出来ない。
沖は諦めて筑波のいう道へ足を踏み入れた。

歩き始めて数分。

―――筑波の提案は、案外良かったかも。

と沖は思っていた。
普段は見落としてしまいがちな景色がそこにはあった。
昔ながらの家々が軒を連ね、季節の植物が咲き乱れている。
塀の上には身体を休める猫や、縁側に座っている初老の夫婦。

まるで、此処だけが時代の流れに飲まれていないようだ。

「こんな道があったんだな」
「ああ、初めて知ったよ」
のんきな事を言いながら、二人は己の勘を頼りに家路へ急ぐ。

「只今帰りましたー」
「おかえり、結構早かったな」
「え?」
帰宅した二人を出迎えた敬介に言われ、沖は時間を確認した。本郷邸から店まで片道30分ほどだったが、20分程度で帰ってきた。
寄り道してしまったから、遅くなったかと思ったが、そんなでもなかったらしい。
何となく嬉しくなって、筑波と沖は顔を見合わせて笑った。



  END


後書き
 珍しくノンCPでした。
 私は筑波&沖のコンビが好きです。この二人は楽しくじゃれあってるって言うイメージがあります。
 ただ、私が筑波をかくと、ちょっと可笑しなキャラになってしまいます(その分、沖が真面目ですが)。