White Christmas.




 12月24日は世間ではクリスマスイブとされている。
 しかし、特殊救難隊にそういった年間行事は無視される傾向がある。正月だろうがお盆だろうが、一度海難救助があれば現場に急行し救助活動を行うからだ。


「疲れた〜」

 救助から戻ってきたが、シャワーを浴びた1隊の隊員達より一足遅く待機室に入ってきた。

 1隊は犬吠崎で起きたプレジャーボートの転覆事故現場から戻ってきたばかりだった。
 特殊救難隊は以外の隊員は全員男であり、救助活動から戻ってきたほとんどが簡単にシャワーを浴びるだけである。
 しかし女性であるは男たちと違い念入りにシャワーを浴びている。 ここら辺は女性と男性の感覚の違いじゃないかと思われる。


 それはさておき。


 待機室にはいつもと違い、小さな鉢植えのクリスマスツリーがあり、甘い匂いが漂っていた。


  ・・・甘い匂い?


  待機室を見渡してみると、隊員達は小皿とフォークを持っていた。

「隊長、どうかしたんですか?」

 は近くにいた黒岩に問いかけた。

「基地長がな、折角のクリスマスだからって、ケーキを差し入れてくれたんだ」

「ケーキですか」

 は嬉しそうに言った。
  一般的に女性は甘いものが好きとわれている。 もその部類に入っているが、ケーキのような高カロリーの物を摂取しておかないと、 寒い水の中ですぐにエネルギーを消費してしまい活動できなくなるからだ。

さん、どうぞ」

  兵悟がケーキの乗った小皿をに差し出した。
「有難う、神林君」
  イチゴが乗ったケーキには、チョコで出来たクリスマスツリーが一緒にあった。

「兵悟、フォーク忘れとるぞ」

 大羽がフォークを渡してくれた。

「あ・・・」

  途端、兵悟は真っ赤になる。

  盤はそれを見て面白そうにからかった。

「兵悟君は本当にダメダメたいね〜」

「な、そんな言い方しなくたっていいじゃんか!!」

「二人とも、さん達が見てるんだから喧嘩しちゃ駄目だって」

 慌てて佐藤が止めに入るが、二人の口喧嘩はエスカレートしていく。



「お前ら、ええ加減にせんか!!!」



  嶋本の雷が落ちたところで喧嘩は終了。

 はその様子をクスクスと―――慈しむような瞳で見ていた。



 何だかんだいって、まだ子どもだな・・・。



さん、座ったらどうですか?」

  小鉄が座っているソファーの横のスペースを手で軽く叩いている。
「そうだね」
 は小鉄の隣に座り、早速ケーキにフォークを入れた。


ぱくり。


 は幸せそうに満面の笑みを浮かべた。
  その笑顔を目撃した隊員達は誰も無言で、普段見ることの出来ないの笑顔を見ることが出来、 神に感謝したそうだ。

「んまいね」
「そうですね」
 既にケーキを食べ終えた小鉄は美味しそうにケーキを頬張るを見て、女性らしいな、と思った。


「いいか?」

  声をかけられ、見上げれば、自分と同じくケーキを持った真田がいた。

「いいよ」

  真田はの隣に腰掛けた。


 は内心、真田ほどイチゴショートが似合わない男はいないだろう、と思ったらしい・・・。


さん、良かったらどうぞ」

  高嶺が紅茶を入れてくれたらしい。
「有難う。高嶺は気が利くな」
 は自分のマグカップを受け取り、紅茶を一口含む。

「幸せそうだな」

  真田の言葉に、はいつもの笑顔を見せる。


「まあね〜」


 残りのケーキを食べ終え、紅茶を飲んでいる時、ふと、窓を見ると。



「雪だ!」


  雪が降っていた。


チラチラと降ってくる雪は本当に綺麗で、皆、窓の外に眼をやった。


雪は次第に降り積もり、町を白く染めてゆく。


「ホワイトクリスマスだな」


はゆっくりと微笑んだ。


どうか、クリスマスの日くらい、海難事故がおきませんように。


海難事故でたくさんの人が泣きませんように。




その年のクリスマスイブとクリスマス当日は、まったく出動要請が無かった。



END