Santa came to the town.





 テレビからもラジオからもクリスマスソングが流れる、誰もが待ち望んだクリスマスイブ。


  ヒヨコ隊から正式隊員になった兵悟は一人寂しく宿舎に歩いていた。

 クリスマスだから、と飲み会に誘われた帰りである。


「真田さん・・・」

 目標であり恋人である真田はインドネシアに派遣され、日本に帰国するまで時間がかなりある。
 真田はインドネシアでも多忙な日々を送っているらしく、お盆などに帰国する事も無く たまにメールをする程度に留まっていた。


 クリスマスくらい逢いたい・・・。


 兵悟は泣き出しそうな感情をぐっとこらえ、宿舎までの道を急いだ。





 宿舎に戻った兵悟は風呂に入ると、さっさと布団にもぐった。
  ふと、12月初頭に聞いた言葉を思い出した。


『クリスマスの夜、靴下に願い事を書いた紙を入れておくと、妖精が叶えてくれるんだよ』


 そう言ったのは、日ごろから新人に優しい1隊の隊員だった。
  妖精や幽霊の類は嫌いな兵悟だが、この日は、その言葉を信じてみようと思った。
 早速カラーボックスから清潔な靴下を取り出し、メモの切れ端に願い事を書くと、その靴下に入れた。



 お願いします、どうか、真田さんに逢わせて下さい。



 靴下を枕元に置いた兵悟は再び布団にもぐり、眠りについた。




 * * *




「ん・・・」


 閉じているはずの瞳の光が届き、その光から逃れと、兵悟は更に布団の中にもぐる。


 すると、普通なら感じることの無い温もりを感じた。 その温もりはゆっくりと兵悟を抱きしめる。


「神林」


  と、自分を呼ぶ声を聞いた兵悟は、その声の人物が誰であるか、直ぐに分かった。


「―――真田さん!?」


 慌てて飛び起きようとしたが、しっかりと真田に抱きしめられているため、起き上がることは出来ない。 逆に、ずるずると更に布団の中に引きずり込まれる形となった。

「あの・・・何でいるんですか?」

  こんな所でこの質問は愚問だろうが、質問せずに入られない。

「クリスマスだからな」

 その言葉に兵悟は笑った。

「どうした?」


「いえ、あの・・・言われた通りだって思ったんです」


 1隊の隊員に言った通りだった。 靴下に願い事を書いた紙を入れておくと、願い事を叶えてくれる、と。

 その言葉を聞くと、真田は複雑な表情になった。


「神林、二人でいる時は他のヤツの名前を出すな」


 彼の口から、他の男の名前など、真田は聞きたくなかった。

 兵悟にその事を教えた隊員に深い意味など無い事は解り切っている。頭では解り切っているのに、心では認められない。
 インドネシアにいる時も、真田は兵悟の事を忘れた日は一度たりともないのだ。


 自分がいない間に、他の隊員に取られたら・・・何度思ったことだろう。


「すみません」
「いや、お前を困らせたいわけじゃない」
  これは真田の本心だった。
 知り合いのいないインドネシアでの心の支えは兵悟の笑顔で、その笑顔を曇らせたくは無い。

「今日は非番だったな」
「はい」
「おかしいかも知れないが、今日一日、俺はお前専用のサンタクロースになろう」
「本当ですか?」
「本当だ」


 兵悟の顔に笑顔が戻り、自然と真田の表情もほころぶ。



  そして、真田はゆっくりと兵悟に口付けた。

 




  お前が喜ぶなら、俺は、ずっと、お前のためだけにあり続けよう。








END