彼に惹かれたきっかけ。

それは一体何なのか。


  10.きっかけ


オイよりも年下で、技術も知識も無い。

同じなのは身長くらいで、オイは真逆の本質をもっている。

巡視船「しらは」の潜水士・神林兵悟くん。




はじめは気に入らない人間やった。
尊敬していた真田さんを西海橋で助けた『奇跡』は、海上保安官の間に広まっていて、それだけで、特別な眼で見られる。

オイはそれが気に入らなかった。

人間は誰しも特別に見られることを望んでいる。
『特殊救難隊』という看板を背負っている真田さんが『神兵』と呼ばれ、尊敬の対象になっている。
オイは、それが人の何倍も強いらしく、いつか真田さんのような潜水士になることが、目標やった。
だから、兵悟君が真田さんを助けたというニュースを聞いた時、真田さんが助かってよかった、という安堵感と、あの真田さんを助けた兵悟君に嫉妬した。
真田さんが兵悟君を特別扱い(?)しているし、兵悟君も真田さんに懐いている。
それが、気に食わなかった。

けれど、現実―――本心は違った。

兵悟君が真田さん、或いは、他の奴と一緒にいると不愉快な気持ちになって、兵悟君に八つ当たりした事もある。


『好き』という恋愛感情を抱いたのは、丁度その時やったと思う。


色々な人から特別な目で見られる兵悟君を手に入れた時の、オイの気持ちは、今まで体験した事の無い気持ちたい。





「―――それって、ノロケ?」
「違います」
ノロケに聞こえるけどね〜。
オイの目の前で、暢気に缶コーヒーをすすっている1隊の副隊長が呆れた視線をオイに投げかける。
「つかね、何で君はそんな話をオレにするの?」
「アンタ以外に話せる人がいなかったからとです」
そう、この人は、オイと兵悟くんが付き合っている事を知っている。
知っているが、苦情は言ってこないし、差別する事も無い。
それがオイにはありがたかったたい。
「ま、良いけどね」
ハア・・・とあからさまにため息をつかれた。
「石井クン」
「はい?」
「君は神林クンのどこが好きってきかれたら、答えられる?」
「何でそんな質問をするとですか?」
「深い意味ないよ。個人的にね、不思議に思ったわけさ」
「何にですか?」
「五十嵐サンに会った頃は、五十嵐サンの後ばっかり追い掛け回していたのに、真田がいなくなると、神林クンに手を出したからね」
・・・確かに。
恵子たんを見た時、オイは恵子たんに運命を感じたくらいたい。
この人から見れば、それが不思議で仕方なかとね。
「まあ、何が『好き』で『嫌い』なんて、後からいくらでも理由をつけられるしね」
「・・・最初に言った事と矛盾してるんじゃなかとですか?」
もう老化が進んでるんじゃ・・・?
「かもねー」
目の前の人は、イヤミの一つも通じない。
空っぽの缶を握り締めたりして、それでいて、涼しい顔をしている。
「もう1個質問してよい?」
「構わんとですけど・・・」

―――刹那。

「君は彼を『愛する事』が出来る?」

それまでの腑抜けた表情が一変して、真剣な―――鋭利な刃物のような―――表情に変わった。
「『愛する事』ですか・・・?」
「そう、『愛する事』、だよ」
「同じじゃなかとですか?」
「『好き』と『愛する』は別物さ」
そろそろ時間だねー。
持っていた空き缶をゴミ箱に捨てて、オイをみた。
「人間は自分に無いものを求めるんだよ」
それは、つまり・・・。

「自分とは反対の存在だから、惹かれると?」

「それはオレに分からないよ。ただ、もしかしたら、それが『きっかけ』なのかもしれないからね」


―――人を『好き』になる、人を『愛する』きっかけは、人それぞれ。

―――案外単純なものかもしれないよ。

「わけ分からんとですよ、あんたは」


オイは兵悟君を好きになった。

その事実だけで、十分たい。


   END





後書き。
 初めての盤×兵悟です。
 盤+オリキャラに見えますが、盤×兵悟です。
 オリキャラが意味不明すぎることを言っています。
 何が書きたかったのか、書いている私も分けがわからなくなりました。
2006/5/29